トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

その後も、ICUは休むことなく動き続けていた。

救急搬送の連絡。術後入室。急変対応。

記録。指示確認。

気づけば時計はもう昼を回っている。

森崎さんが言っていた「うちめちゃくちゃ忙しいんで」の意味が少しずつ分かってきた。

それでも不思議と疲労感は少なかった。

むしろ身体が“救命の空気”を思い出していく感覚があった。

空いた時間でカルテチェックをしていると、

「一ノ瀬さん!」

後ろから声をかけられる。

振り返ると、さっき一緒に急変対応していた若手看護師が立っていた。

まだ少し興奮した顔をしている。

「はい」

「私、2年目の南出って言います!
さっきの挿管の時の事で聞きたいことがあって…」

そこから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

換気介助のタイミング。

薬剤準備。

ドクターへの声かけ。

人工呼吸器の見方。

全部、現場でしか学べないようなことばかりだった。

私は一つずつ説明していく。

「SpO₂だけじゃなくて、胸郭の動きも見て」

「あと挿管前って先生の動き先読みしとくと楽だよ」

「次何欲しいか考えながら動く感じ」

「なるほど……!」

目を輝かせながら聞いてくるその姿に、少しだけ懐かしさを覚える。

昔の自分も、きっとこんな感じだった。

すると。

「もう教育始まってるやん」

後ろから森崎さんの声。

「ええ感じです」

森崎さんはそう言って笑う。

そして若手看護師へ視線を向けた。

「一ノ瀬さんから学べるん、かなり貴重やで」

「吸収できるもん全部吸収しとき」

「はいっ!」

元気な返事。

その様子に、森崎さんが満足そうに頷く。

すると今度は、別の男性看護師がこっちへやってくる。

歳は…多分森崎さんと同じぐらいにみえる。

「主任〜、ほんまええ看護師引き抜いてきてくれましたね〜」

「急変中ずっと空気変わらんかったし。あの一瞬で相当経験あるん分かりましたわ」

その言葉に、周りも頷く。

「南出ちゃんへの説明もめっちゃ分かりやすかったし」

「俺と同じ7年目とはとてもやないけど思えませんわ…」

「ほんまやで」

森崎さんが笑いながらツッコむ。

でもその直後。

ふっと真面目な顔になった。

「まぁでも」

「ほんまに現場強い人って、周り落ち着かせられる人なんですよ」

その視線が、こちらへ向く。

「一ノ瀬さん、そこめっちゃ強い」

突然そんな風に言われて、一瞬言葉が詰まる。

「……そんなことないです」

反射的にそう返すと。

周りが一斉に「いやいやいや」と反応した。

「謙遜えぐい!」

「もう今日だけで実力証明しましたやん」

「めっちゃカッコよかったです!」

あまりの勢いに、私は少し困ってしまう。

すると森崎さんが楽しそうに笑った。

「天然で自己評価低いタイプや」

「なるほど……」

「ギャップやば……」

なんか変な方向へ盛り上がっている。

私は思わず顔を覆いたくなった。

新しい場所なのに。

もう少し怖いと思っていたのに。

ここにはちゃんと、“チーム”の空気がある。

誰か一人で戦ってるわけじゃない。

命を救うために、全員で動いている。

その感覚が、すごく心地よかった。

するとその時。

——ピピッ。

また別のモニターアラームが鳴る。

一瞬で、空気が変わる。

「3番血圧下がってます!」

「ルート確認します!」

スタッフたちが一気に動き出す。

さっきまで笑っていた空気が、一瞬で“現場”になる。

その切り替えの速さに、私は小さく息を呑んだ。

……すごい。

このICU、本当にレベルが高い。

すると隣で森崎さんが、小さく笑う。

「うち、こんな感じです」

その横顔はどこか誇らしげだった。

私は小さく頷く。

「……好きかもしれません」

その瞬間。

森崎さんが目を丸くする。

「え」

「このICU」

「空気感」

「''いいチーム''なのがわかります」

そう言うと。

森崎さんが、ふっと優しく笑った。

「……それ聞けてよかった」

その声は、少しだけ嬉しそうだった。