トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

ドクターが去ったあと、若手看護師が小声で言う。

「一ノ瀬さん、ほんまにすごい人やったんですね……」

「全然普通だよ」

即答すると、少しだけ間が空いてから笑われた。

「いや、普通じゃないですって」

そのやり取りを見ていた森崎さんが、また小さく笑う。

「もうバレてもてるわ」

そう言って、コーヒーを一口飲む。

そして少しだけ真面目な声になる。

「一ノ瀬さん」

呼ばれて顔を向けると、森崎さんは患者のモニターを見たまま続けた。

「このICU、多分すぐ“頼られる側”になるで」

「今日みたいなん、これから普通に来る」

一瞬、空気が重くなる。

私はモニターを見つめたまま言う。

「はい」

森崎さんは少しだけ目を細めた。

「……ええ返事やな」

そして、ぽつりと付け足す。

「ようこそ、ICUへ」

その言葉は、歓迎なのか試練なのか。

どちらとも取れる響きだった。

でも私はもう分かっていた。

ここは、優しさだけじゃ成り立たない場所。

それでも人を生かすために、全員が同じ方向を向いている場所だ。

私はもう一度、患者の呼吸波形を見た。

安定している。

さっきより、少しだけ確かに。

その小さな“戻り”を見ながら、私は静かに思った。

——ここからだ。

本当の意味でのICUが、始まるのは。