急変が落ち着いたあとのICUは、さっきまでの嵐が嘘みたいに静かだった。
人工呼吸器の規則的な送気音だけが、一定のリズムで部屋に残っている。
私はモニターを見ながら、呼吸状態の推移を時系列で追っていた。
「……ここで痰が一気に動いたのかな」
小さく独り言のように呟くと、隣にいた若手看護師が頷く。
「ほんまですね……こんな急に落ちるんや」
そう言いながら2人で波形を照らし合わせていく。
一つずつ整理していくうちに、さっきの緊張が少しずつ“経験”に変わっていく感覚があった。
その時。
後ろから足音が近づく。
「お疲れ」
森崎さんだった。
手にはコーヒーの紙カップ。
「初日でこれは上出来すぎやな」
軽い言い方なのに、目はしっかりと私を見ている。
「……たまたまです」
そう返すと、森崎さんはふっと笑った。
「たまたまでは動けへんで、あれは」
一瞬、言葉が詰まる。
その時、ドクターが再び病室へ戻ってくる。
「さっきは助かりました。…見ない顔ですね。」と。
短くそう言って、カルテを確認する。
「初日なんですけどね、その人」
森崎さんの言葉にドクターの手が一瞬止まる。
「初日?」
「ええ。今日からICU」
その瞬間、ドクターがわずかに目を上げる。
今度は、ちゃんとこちらを見る目だった。
「……それであの動きですか」
少しだけ沈黙。
モニターのアラーム音もなく、ただ人工呼吸器の音だけが続く。
私は視線を外さずに言う。
「前の現場で経験があるだけです」
それ以上は足さない。
ドクターは小さく息を吐くと、短く頷いた。
「ICU、慣れてください」
それは命令でもなく、評価でもなく。
そして最後に一言だけ付け足す。
「……すぐ頼りにします」
その言葉が落ちた瞬間、ICUの空気がほんの少しだけ変わった。
試されていた側から、同じ場に立つ側へ。
私は軽く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
ドクターはもう一度だけこちらを見てから、次の指示へと視線を戻した。
森崎さんが、横で小さく笑う。
「ほらな」
その一言だけが、妙に重く残った。
人工呼吸器の規則的な送気音だけが、一定のリズムで部屋に残っている。
私はモニターを見ながら、呼吸状態の推移を時系列で追っていた。
「……ここで痰が一気に動いたのかな」
小さく独り言のように呟くと、隣にいた若手看護師が頷く。
「ほんまですね……こんな急に落ちるんや」
そう言いながら2人で波形を照らし合わせていく。
一つずつ整理していくうちに、さっきの緊張が少しずつ“経験”に変わっていく感覚があった。
その時。
後ろから足音が近づく。
「お疲れ」
森崎さんだった。
手にはコーヒーの紙カップ。
「初日でこれは上出来すぎやな」
軽い言い方なのに、目はしっかりと私を見ている。
「……たまたまです」
そう返すと、森崎さんはふっと笑った。
「たまたまでは動けへんで、あれは」
一瞬、言葉が詰まる。
その時、ドクターが再び病室へ戻ってくる。
「さっきは助かりました。…見ない顔ですね。」と。
短くそう言って、カルテを確認する。
「初日なんですけどね、その人」
森崎さんの言葉にドクターの手が一瞬止まる。
「初日?」
「ええ。今日からICU」
その瞬間、ドクターがわずかに目を上げる。
今度は、ちゃんとこちらを見る目だった。
「……それであの動きですか」
少しだけ沈黙。
モニターのアラーム音もなく、ただ人工呼吸器の音だけが続く。
私は視線を外さずに言う。
「前の現場で経験があるだけです」
それ以上は足さない。
ドクターは小さく息を吐くと、短く頷いた。
「ICU、慣れてください」
それは命令でもなく、評価でもなく。
そして最後に一言だけ付け足す。
「……すぐ頼りにします」
その言葉が落ちた瞬間、ICUの空気がほんの少しだけ変わった。
試されていた側から、同じ場に立つ側へ。
私は軽く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
ドクターはもう一度だけこちらを見てから、次の指示へと視線を戻した。
森崎さんが、横で小さく笑う。
「ほらな」
その一言だけが、妙に重く残った。

