フライトプロジェクト開始は来週から。
それまではまず、大阪中央医療センターのICU環境に慣れることになった。
「まぁまずは現場知ってもらわなあかんので」
そう言いながら、森崎さんが電子カルテを私に見せる。
「初日からやけど、普通に受け持ちついてもらいます」
「?!」
思わず目を瞬く。
すると森崎さんがケロッとした顔で笑った。
「一ノ瀬さんなら余裕やろー」
「なんか分からんことあったら聞いて」
軽い。めちゃくちゃ軽い。
でもそこに、“信用してる”空気がある。
私はカルテへ視線を落とした。
重症肺炎で今朝人工呼吸を離脱した患者。
循環動態、呼吸状態共に不安定。
ICUらしい重症患者だった。
「よろしくお願いします」
私は小さく頭を下げ、そのまま患者さんの元へ向かう。
やることは、今までと変わらない。
丁寧に。確実に。
小さな変化も見逃さない。
モニター。呼吸音。SpO₂。
表情。皮膚色。ドレーン。
全部を一つずつ確認していく。
初めての環境でも、身体は自然に動いた。
それがもう、自分の中へ染みついている。
「……すご」
近くで見ていた若いと思われる看護師が、小さく呟く。
「一ノ瀬さん、何年目なんですか?」
「7年目です」
「え、7年目でその落ち着き……?」
そんな会話をしていた、その時だった。
——ピピッ!!
モニターアラーム。
SpO₂低下。
呼吸状態が急激に悪化する。
「っ」
私は瞬時に患者さんの状況を把握する
「SpO2落ちてます!」
「バッグ持ってきて!」
周囲の空気が一気に張り詰める。
痰閉塞。努力呼吸増強。
換気不良。
私はすぐに状態を判断した。
「先生呼んでください!」
その間も私は冷静に気道確保を続ける。
「SpO2 72!」
「血圧低下してます!」
緊迫した空気。
でも不思議と、頭は静かだった。
——大丈夫。
やることは決まってる。
「状況は!」
救急医が部屋に駆け込んでくる
初めて見る先生。
でもそれは関係ない。
私はすぐに必要物品を揃えながら、短く状況を共有する。
「急激に換気不良起こしてます」
「気道分泌多め」
「再挿管必要かと」
ドクターが頷く。
「挿管する」
その瞬間。
ICU全体の空気がさらに張り詰めた。
私は迷わなかった。
薬剤準備。
ルート確認。
モニター管理。
換気介助。
次に必要になるものを先読みしながら動く。
「エアウェイ準備できてます」
「薬いけます」
「バッグ換気入ります」
初めて組むドクターなのに、呼吸を合わせるみたいに動けていた。
ドクターが一瞬こちらを見る。
驚いた顔。見たことのない看護師だからだろう。
でもそのまま処置へ集中する。
「チューブ入ります」
「確認します」
私はすぐに聴診。
胸郭挙上。
EtCO₂。
呼吸音。
モニター。
全部を確認して、はっきり言う。
「挿管確認できました」
その瞬間。
ICUの空気が少しだけ緩む。
「SpO2 戻ってます」
「血圧上昇」
周囲から安堵の声が漏れる。
私はそのまま人工呼吸器を調整しながら、患者さんの状態を再評価していく。
その動きに。
周りのスタッフたちは、完全に圧倒されていた。
「……すご」
「いやすごいってレベルちゃうで」
「初めての現場やんな……?」
「森崎主任が言ってた意味分かったわ」
そう、口々に話す。
若手看護師たちは、まるで憧れを見るみたいな目で紗凪をみる。
ドクターですら、処置後に少し驚いた顔をする。
「……めちゃくちゃ動きやすかったです」
「助かりました」
私は軽く頭を下げる。
「いえ、こちこそありがとうございました」
でも。そんな中で一人だけ。
森崎だけが、少し離れた場所で腕を組みながら満足そうに笑っていた。
まるで。
“だから言ったやろ”と言いたげに。
そして紗凪と目が合うと、ふっと口角を上げる。
「……やっぱ現場強いなぁ」
その声は、小さかった。
紗凪は少しだけ息を吐きながら、改めて患者さんへ視線を向ける。
ここは新しい場所。
でも。
“命を繋ぐ”ことだけは、どこへ行っても変わらない。
そう実感した、最初の急変対応だった。
それまではまず、大阪中央医療センターのICU環境に慣れることになった。
「まぁまずは現場知ってもらわなあかんので」
そう言いながら、森崎さんが電子カルテを私に見せる。
「初日からやけど、普通に受け持ちついてもらいます」
「?!」
思わず目を瞬く。
すると森崎さんがケロッとした顔で笑った。
「一ノ瀬さんなら余裕やろー」
「なんか分からんことあったら聞いて」
軽い。めちゃくちゃ軽い。
でもそこに、“信用してる”空気がある。
私はカルテへ視線を落とした。
重症肺炎で今朝人工呼吸を離脱した患者。
循環動態、呼吸状態共に不安定。
ICUらしい重症患者だった。
「よろしくお願いします」
私は小さく頭を下げ、そのまま患者さんの元へ向かう。
やることは、今までと変わらない。
丁寧に。確実に。
小さな変化も見逃さない。
モニター。呼吸音。SpO₂。
表情。皮膚色。ドレーン。
全部を一つずつ確認していく。
初めての環境でも、身体は自然に動いた。
それがもう、自分の中へ染みついている。
「……すご」
近くで見ていた若いと思われる看護師が、小さく呟く。
「一ノ瀬さん、何年目なんですか?」
「7年目です」
「え、7年目でその落ち着き……?」
そんな会話をしていた、その時だった。
——ピピッ!!
モニターアラーム。
SpO₂低下。
呼吸状態が急激に悪化する。
「っ」
私は瞬時に患者さんの状況を把握する
「SpO2落ちてます!」
「バッグ持ってきて!」
周囲の空気が一気に張り詰める。
痰閉塞。努力呼吸増強。
換気不良。
私はすぐに状態を判断した。
「先生呼んでください!」
その間も私は冷静に気道確保を続ける。
「SpO2 72!」
「血圧低下してます!」
緊迫した空気。
でも不思議と、頭は静かだった。
——大丈夫。
やることは決まってる。
「状況は!」
救急医が部屋に駆け込んでくる
初めて見る先生。
でもそれは関係ない。
私はすぐに必要物品を揃えながら、短く状況を共有する。
「急激に換気不良起こしてます」
「気道分泌多め」
「再挿管必要かと」
ドクターが頷く。
「挿管する」
その瞬間。
ICU全体の空気がさらに張り詰めた。
私は迷わなかった。
薬剤準備。
ルート確認。
モニター管理。
換気介助。
次に必要になるものを先読みしながら動く。
「エアウェイ準備できてます」
「薬いけます」
「バッグ換気入ります」
初めて組むドクターなのに、呼吸を合わせるみたいに動けていた。
ドクターが一瞬こちらを見る。
驚いた顔。見たことのない看護師だからだろう。
でもそのまま処置へ集中する。
「チューブ入ります」
「確認します」
私はすぐに聴診。
胸郭挙上。
EtCO₂。
呼吸音。
モニター。
全部を確認して、はっきり言う。
「挿管確認できました」
その瞬間。
ICUの空気が少しだけ緩む。
「SpO2 戻ってます」
「血圧上昇」
周囲から安堵の声が漏れる。
私はそのまま人工呼吸器を調整しながら、患者さんの状態を再評価していく。
その動きに。
周りのスタッフたちは、完全に圧倒されていた。
「……すご」
「いやすごいってレベルちゃうで」
「初めての現場やんな……?」
「森崎主任が言ってた意味分かったわ」
そう、口々に話す。
若手看護師たちは、まるで憧れを見るみたいな目で紗凪をみる。
ドクターですら、処置後に少し驚いた顔をする。
「……めちゃくちゃ動きやすかったです」
「助かりました」
私は軽く頭を下げる。
「いえ、こちこそありがとうございました」
でも。そんな中で一人だけ。
森崎だけが、少し離れた場所で腕を組みながら満足そうに笑っていた。
まるで。
“だから言ったやろ”と言いたげに。
そして紗凪と目が合うと、ふっと口角を上げる。
「……やっぱ現場強いなぁ」
その声は、小さかった。
紗凪は少しだけ息を吐きながら、改めて患者さんへ視線を向ける。
ここは新しい場所。
でも。
“命を繋ぐ”ことだけは、どこへ行っても変わらない。
そう実感した、最初の急変対応だった。

