トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

そして——ついに勤務初日。

朝。

私は小さく深呼吸をした。

マンションを出る。

春の少し冷たい風が頬を撫でた。

病院までは徒歩10分。

道を歩きながら、何度も頭の中で今日の流れを確認する。

挨拶。

オリエンテーション。

現場確認。

覚えることは山ほどある。

ちゃんとやれるかな。

そんな不安が胸を掠めた時。

首元のネックレスが小さく揺れた。

私はそっとそこへ触れる。

——大丈夫。

そう自分へ言い聞かせるみたいに。

しばらく歩くと。

目の前に、大きな建物が見えてきた。

私は思わず足を止める。

『大阪中央医療センター』

大きく掲げられた看板。

広い救急搬入口。

ひっきりなしに出入りする救急車。

屋上にはヘリポート。

圧倒されるほど大きな病院だった。

「……すご」

思わず声が漏れる。

東京の中央大学病院も大きかった。

でもここはまた違う。

“西日本の救命最前線”

そんな空気を感じる。

ここで。

私は働くんだ。

フライトナースとして。

指導者として。

不安がないわけじゃない。

むしろ怖いくらいだ。

でも同時に。

胸の奥が少し熱くなる。

——頑張りたい。

その気持ちも確かにあった。

私は今日から使う仕事用バッグを握り直す。

その時。

「おっ」

後ろから聞き慣れた声。

振り返ると、スクラブを着た森崎さんが立っていた。

「おはようございます」

「おはようさん」

森崎さんはそう言いながら、私の顔を見る。

そしてふっと笑った。

「めっちゃ緊張してるな」

「……してます」

正直に答えると、森崎さんが吹き出した。

「顔カチコチやん」

「そんなに?」

「うん」

私は思わず苦笑いする。

すると森崎さんが、ぽんっと軽く私の肩を叩いた。

「大丈夫やで」

「みんな一ノ瀬さん来るん楽しみにしてるんで」

「……ほんとですか?」

「ほんまほんま」

そう言いながら、病院の入口へ向かって歩き出す。

私はその隣を少し緊張しながら歩いた。

入口を抜ける。

広いエントランス。

忙しそうに行き交うスタッフ。

救急隊。

ドクター。

ピリッとした空気。

それだけで、この病院がどれだけ最前線なのか分かる。

すると森崎さんが歩きながら振り返った。

「ちなみに」

「はい?」

「うちの救命、クセ強い人多いで」

「……はい」

「でも腕は一流やから」

その顔が少し誇らしそうで。

私は自然と背筋を伸ばした。

ここで働く。

ここで学ぶ。

ここで、命と向き合う。

私はもう一度、小さく深呼吸をする。

そして。

大阪中央医療センターの中へ、ゆっくり足を踏み入れた。