トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

部屋の中は静かだった。

さっきまで森崎さんがいた空気が消えて、急に“一人になった”実感が押し寄せてくる。

私は小さく息を吐きながら、ソファへ腰を下ろした。

そしてスマホを耳へ当てる。

数コールで電話が繋がった。

『もしもし?』

聞こえてきた声だけで、少し安心する。

「……陽貴くん」

『着いた?』

「うん、今マンション着いた」

そう言うと、電話の向こうで少し安心したような息が聞こえた。

『よかった』

『でも思ったより早かったね』

「空港まで迎えに来てくれてて」

『迎え?』

「うん、一緒の職場になる人が」

そこまで言った瞬間。

少しの沈黙。

そして。

『……男?』

低い声。

あまりにも分かりやすくて、私は思わず吹き出した。

「何その間」

『いや、確認』

「男の人です」

正直に答えると。

電話の向こうで「はぁ〜……」と盛大なため息が聞こえた。

私は思わず笑ってしまう。

「どうしたの?」

『だって空港まで迎え行くって距離近くない?』

「プロジェクトの主任さんだから」

『主任?』

「うん」

『何歳?』

「30歳」

『若いな!?』

食い気味に返ってきて、また笑ってしまう。

「現役フライトナースで主任やってる人」

『……有能じゃん』

「めちゃくちゃ有能だった」

経歴もすごかった。

現場経験も圧倒的だった。

でもそれ以上に、人を安心させる空気を持ってる人だった。

私がそう説明すると。

電話の向こうで、陽貴くんがさらに黙る。

「陽貴くん?」

『……顔いい?』

「え」

『そこ大事』

あまりにも真剣な声で言うから、私は吹き出した。

「知らない」

『いや絶対いいじゃんその反応』

「なんでそんな気になるの」

『そりゃ気になるでしょ』

少し拗ねたみたいな声。

でもその声が可愛くて、私は自然と笑ってしまう。

「大丈夫だよ」

『何が』

「ちゃんと陽貴くんが一番好きだから」

その瞬間。

電話の向こうがぴたりと静かになった。

「……陽貴くん?」

すると数秒後。

『無理』

「え?」

『好き』

低く甘い声。

一気に心臓が跳ねる。

『そんなこと言われたら今すぐ会いたくなる』

「っ……」

『可愛すぎるんだけど』

耳が熱い。

離れてるのに、こんなにドキドキする。

私はソファへ顔を埋めながら、小さく呟く。

「……もう」

『紗凪』

「ん?」

『寂しくない?』

急に優しくなった声。

私は少しだけ黙った。

そして正直に答える。

「……寂しい」

部屋が静かすぎて。

隣に陽貴くんがいなくて。

“おかえり”って抱きしめてくれる人がいなくて。

それだけで、胸がきゅっとなる。

すると陽貴くんが優しく笑った。

『俺も』

『めちゃくちゃ寂しい』

その声に、胸が熱くなる。

『でもちゃんと頑張ってる紗凪、かっこいいから』

『俺も頑張る』

「……うん」

『だから半年後、もっとかっこよくなって帰っておいで』

私はネックレスをそっと握る。

「……待っててね」

そう言うと。

電話の向こうで、陽貴くんが柔らかく笑った気配がした。

『ずっと待ってるよ』

その言葉だけで。

知らない街の中でも、ちゃんと前を向ける気がした。