トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

空港を出てしばらくすると、街の景色が少しずつ変わっていく。

高いビル。

派手な看板。

東京とはまた違う賑やかさ。

車窓を眺めながら、私はぼんやり外を見つめた。

すると。

「ホームシックなってます?」

運転しながら、森崎さんがちらっとこっちを見る。

「えっ」

「顔。寂しそうやから。」

図星すぎて、思わず苦笑いが漏れた。

私は窓の外へ視線を戻す。

「少しだけ…寂しいです」

そう言うと。

森崎さんが小さく頷いた。

「まぁ、そらそうっすよね」

「恋人もおるんやし」

「っ……」

さらっと言われて、一気に顔が熱くなる。

その反応を見て、森崎さんが吹き出した。

「分かりやすっ」

「いや、だって……」

「大事にされてる顔してますもん」

その言葉に、一瞬だけ言葉が詰まる。

大事にされてる。

その自覚は、ちゃんとある。

陽貴くんは、ずっと私を支えてくれていた。

離れる前も。

不安な時も。

ちゃんと隣で背中を押してくれた。

私はそっと胸元のネックレスへ触れる。

すると森崎さんが「あー」と小さく笑った。

「それ彼氏さんにもろたやつです?」

「……はい」

「やっぱり」

「めちゃくちゃ大事そうに触るやないですか」

恥ずかしくて、私は小さく俯く。

すると森崎さんが、どこか安心したみたいに笑った。

「よかった」

「え?」

「いや、一ノ瀬さん真面目やから」

「無理して全部抱え込むタイプやろなって思ってたんです」

「でもちゃんと支えてくれる人おるなら安心やなぁって」

その言葉が、胸へじんわり落ちる。

私は少しだけ笑った。

「……支えてもらってばっかりです」

「ええやないですか」

森崎さんが即答する。

「頼れる人おるんは強いことです」

その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた気がした。

車はそのまま住宅街へ入っていく。

少し落ち着いた街並み。

病院近くというだけあって、医療関係者らしき人の姿もちらほら見える。

「ここら辺、静かで住みやすいですよ」

「スーパーも近いし」

そう言いながら、森崎さんが車を止めた。

「到着」

窓の外を見る。

そこには、綺麗なマンションタイプのアパートが建っていた。

想像していたよりずっと新しい。

「すご……」

思わず声が漏れる。

すると森崎さんが笑った。

「プロジェクト用に病院側が結構気合い入れてるんですよ」

車を降りる。

森崎さんがまた自然にキャリーケースを持ってくれた。

「301です」

エレベーターへ乗り込みながら、森崎さんが説明を続ける。

「冷蔵庫も洗濯機もあるし、最低限生活できるようにはしてあります」

「あと分からんことあったら普通に連絡ください」

「夜中でも?」

冗談半分で聞くと。

森崎さんが真顔で頷いた。

「全然」

「現場やと夜中の相談とか普通なんで」

「……頼もしすぎる」

「任してください」

そう言って笑う顔が、相変わらず軽い。

でも不思議と安心する。

部屋へ入る。

白を基調とした、綺麗なワンルーム。

家具も揃っていて、すぐ生活できそうだった。

「わ……」

思わず小さく感動していると。

後ろから森崎さんが笑う。

「気に入りました?」

「はい、すごく」

「ならよかった」

その時。

スマホが震えた。

画面を見る。

——陽貴くん。

私は思わず少しだけ表情が緩む。

すると森崎さんが、その顔を見てふっと笑った。

「彼氏さん?」

「……はい」

「電話してあげてください」

そう言いながら、森崎さんが玄関の方へ向かう。

「俺、今日はこれで帰るんで」

「えっ、ありがとうございました!」

慌てて頭を下げる。

すると森崎さんがドアの前で振り返った。

「明後日から地獄みたいに忙しいんで」

「今日はちゃんと休んでくださいね」

「……怖いこと言わないでください」

「ははっ」

楽しそうに笑う。

そして最後に。

「大阪へようこそ、一ノ瀬さん」

その言葉を残して、森崎さんは帰っていった。

静かになった部屋。

私は小さく深呼吸をする。

ここから始まる。

新しい生活。

新しい現場。

不安もある。

でも。

私はスマホを握りしめながら、小さく笑った。

——頑張ろう。

ちゃんと前を向いて。