トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

大阪に到着した瞬間、空気が少し違う気がした。

空港へ降り立つ。

大きなキャリーケースを引きながら、私は小さく深呼吸をした。

——ついに来たんだ。

大阪。

これから半年間、私が働く場所。

不安はまだある。

でも同時に、“頑張りたい”という気持ちもちゃんとあった。

スマホを見る。

“着いた?”

陽貴くんから届いていたメッセージ。

私は思わず少し笑う。

『今着いた!』

そう返した瞬間。

「おっ、一ノ瀬ちゃーん!」

遠くから大きな声が響いた。

顔を上げる。

すると、人混みの中でも一際目立つ男の人が大きく手を振っていた。

……目立つ。

めちゃくちゃ目立つ。

黒のジャケットをラフに着崩しながら立っているその人は、空港の中でも妙に存在感があった。

周りの女の人たちがちらちら見ている。

中には顔を赤くしてる人までいる。

……まぁ分かる。

普通に顔がいい。

しかもスタイルまでいい。

でも当の本人は全く気にしてない様子で、こっちへ歩いてきた。

「お疲れさん!」

森崎隼斗さん。

今回のプロジェクトで、一緒に現場教育を担当するフライトナース主任。

私は慌てて頭を下げる。

「お、お疲れ様です」

「いやいや、そんな固ならんでください」

森崎さんが笑う。

「今日から仲間やのに」

その言い方が自然で、少しだけ緊張がほぐれる。

「荷物これだけ?」

「はい」

「軽っ」

森崎さんが驚いた顔をする。

そしてそのまま、私のキャリーケースをひょいっと持ち上げた。

「あっ、自分で持ちます!」

「ええよええよ」

「重たいでしょ」

「普段から患者担いでる人に言うセリフちゃいます」

そう言って、けらけら笑う。

……確かに。

思わず私も笑ってしまった。

空港を出る。

関西の少し湿った風が頬を撫でた。

駐車場へ向かいながら、森崎さんが隣で話し始める。

「今日はとりあえず病院近くのアパートまで案内します」

「家具家電、一通り揃ってるはずなんで安心してください」

「ありがとうございます」

「あと病院まで徒歩10分ぐらいです」

「近い……」

「近いっす」

そう言いながら、森崎さんが車のロックを解除する。

車へ乗り込むと、森崎さんがエンジンをかけながらちらっとこっちを見た。

「……緊張してます?」

その言葉に、私は少しだけ苦笑する。

「ちょっと」

「まぁそらそうか」

森崎さんはハンドルへ腕を乗せながら、小さく笑った。

「でも大丈夫ですよ」

「大阪中央、癖強い人多いですけど、みんな現場ガチ勢なんで」

「……ガチ勢」

「救命バカばっかです」

その表現に思わず吹き出す。

すると森崎さんも楽しそうに笑った。

「でも紗凪ちゃん、多分すぐ馴染みますわ」

「え?」

「なんとなく」

「そういう空気持ってる」

その言葉に、少しだけ目を瞬く。

そんな風に言われると思ってなかった。

すると森崎さんが、さらっと続けた。

「まぁ困ったら俺いますし」

「半年、ちゃんと支えるんで安心してください」

その声は軽い。

でも、不思議と安心感があった。

きっとこの人は。

軽そうに見えて、ちゃんと人を見てる。

現場で積み上げてきた強さがある人なんだろう。

車がゆっくり走り出す。

窓の外に広がる、大阪の街。

知らない景色。

知らない空気。

ここから、新しい毎日が始まる。

不安もある。

寂しさも消えない。

でも。

私はそっと胸元のネックレスへ触れた。

“いつでも繋がってる”

陽貴くんの声を思い出す。

私は小さく深呼吸をした。

——よし。

頑張ろう。

新しい空の下で、私はまた一歩前へ進み始めた。