「……そろそろ帰るね」
私がそう言うと、梓が小さく頷いた。
二人でカンファレンスルームを出る。
いつも通りの慌ただしいICU。
聞こえてくるモニター音。
スタッフステーションの明かり。
何度も見てきた景色。
でも今日は、いつもより少しだけ特別に見えた。
更衣室の前まで来たところで、梓が立ち止まる。
私も自然と足を止めた。
少しの沈黙。
すると梓が、ふっと笑う。
「半年なんてあっという間だよ」
「……うん」
「気づいたら普通に“おかえり”って言ってる気がする」
その言葉が嬉しくて、私は小さく笑った。
「ちゃんと成長して帰ってくる」
「うん」
「期待してる」
梓はそう言いながら、私の肩を軽く叩く。
その顔はいつもの梓だった。
強くて。
優しくて。
どこか安心する顔。
「向こう行っても紗凪は紗凪なんだから」
「無理して変わろうとしなくていい」
「困ったら頼る」
「ちゃんと食べる」
「寝れる時は寝る」
「あと天然で変なとこ行かない」
「最後だけおかしくない?」
「大事だから」
真顔で返されて、私は思わず吹き出した。
そんな私を見て、梓も小さく笑う。
それから。
梓が一歩近づいた。
そして、ふわっと私を抱きしめる。
「……頑張っておいで」
耳元で落ちた優しい声。
涙が込み上げてくる。
私もそっと梓を抱きしめ返した。
「……うん」
「ちゃんと帰ってくる」
「待ってる」
その言葉が、嬉しかった。
離れるのは寂しい。
でも。
帰ってきたいと思える場所がある。
待っていてくれる人がいる。
それだけで、前を向ける。
梓はゆっくり身体を離すと、いつもの少し強気な笑顔を向けてくる。
そして。
「じゃあ、いってらっしゃい」
その言葉に。
私は自然と笑った。
「……行ってきます」

