トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-

大阪へ行くまでの1週間。

その時間は、驚くくらいあっという間だった。

陽貴くんは、本当に毎日たくさん甘やかしてくれた。

仕事終わりには必ず迎えに来てくれて。

帰れば「お疲れさま」って抱きしめてくれて。

疲れて寝落ちした日には、気づけば髪を乾かしてくれていたり。

朝は私が起きるまで隣で抱きしめてくれていたり。

「好き」

って何度も言葉にしてくれて。

まるで離れる前に、一秒でも多く愛情を伝えようとしてくれてるみたいだった。

——一生分の愛をもらったんじゃないか。

本気でそう思うくらいに。

愛されていた。

そして。

ついに、明日。

私は大阪へ旅立つ。



その日の夜勤明け。

「一ノ瀬、ちょっとカンファ行ける?」

師長さんにそう言われて向かったカンファレンスルーム。

扉を開けた瞬間。

「「「おつかれさまでしたー!!」」」

クラッカーの音が響いた。

「っ!?」

驚いて固まる私の前には、ICUスタッフのみんな。

テーブルの上にはお菓子やジュースまで並んでいて、簡単なパーティー会場みたいになっていた。

「なにこれ……」

「送別会」

林くんが満面の笑みで言う。

「いや、“行ってらっしゃい会”かな」

梶原さんが笑いながら訂正した。

私は思わず目を瞬かせる。

「……聞いてない」

「サプライズ成功っすね」

後輩たちが嬉しそうに笑う。

すると師長さんが前へ出てきた。

「一ノ瀬」

優しい声。

「大阪行っても、あんたはうちの大事なスタッフだからね」

その言葉だけで、胸がじんわり熱くなる。

「半年間、思いっきり学んで、そしてあんたのいい看護を教えてきなさい」

「……はい」

声が少し震えた。

すると。

「はいこれ」

梓が大きな袋を渡してくる。

「みんなから」

「え……?」

開けると、中には寄せ書き。

そして。

ドクターヘリのマークが入った黒いボールペン。

思わず息を呑む。

「…かわいい」

「特注らしいですよ」

後輩が笑う。

「林さんめっちゃ探してました」

「いや〜苦労しましたよ!」

林くんが胸を張る。

寄せ書きを開く。

“困ったらいつでも戻ってこい”

“向こうでも絶対エースです”

“身体だけはちゃんと休めてください”

“またフライト一緒に乗りましょう!”

一人一人の文字。

メッセージ。

それを読んでいるうちに、視界が少しずつ滲んでいく。

「……泣くなよ一ノ瀬」

梶原さんが苦笑する。

「まだ辞めるわけじゃねぇだろ」

その言葉に、みんなが笑った。

でも。

その空気が優しくて、余計に涙が出そうになる。

「寂しくなるなぁ」

後輩の一人がぽつりと呟く。

「フライトで一ノ瀬さんいると安心感やばかったですもん」

「分かる」

「急変の時の安心感異常」

「ほんとそれ」

次々飛んでくる言葉に、胸がいっぱいになる。

すると梓が私の隣へ来て、軽く肩をぶつけてきた。

「半年間ぐらい、私たちに任せなさい」

その言葉に、私は顔を上げる。

梓はいつもの強気な顔で笑った。

「紗凪がいない間のICU、ちゃんと守っとくから」

「だから向こうで思いっきり頑張ってきな」

その瞬間。

張っていたものが、少しだけ緩んだ気がした。

「……うん」

やっと絞り出せた声。

すると師長さんが頷く。

「一ノ瀬なら大丈夫」

「向こうでも絶対いい看護師になる」

「もう十分なってるけどな」

梶原さんがぼそっと言う。

その言葉に、また笑いが起きた。

寂しい。

不安。

離れたくない。

そんな気持ちは、きっと消えない。

でも。

こうして背中を押してくれる人たちがいる。

“行ってこい”って笑ってくれる人たちがいる。

それだけで、前を向ける気がした。

私は寄せ書きを胸へ抱きしめながら、小さく笑う。

「……行ってきます」

そう言うと。

みんなが一斉に笑った。

「「「行ってらっしゃい!」」」