その日の夜。
荷造りを一旦切り上げて、私はソファへ腰を下ろした。
するとすぐに、隣へ陽貴くんが座る。
いや、“隣”というより。
ほぼくっついてる。
肩。
腕。
脚。
全部触れてる。
「……近い」
私は思わず笑う。
最近の陽貴くん、前にも増して甘えん坊だ。
仕事から帰ってきた瞬間抱きついてくるし。
寝る時は絶対離してくれないし。
少し離れただけで「どこ行くの」って聞いてくる。
そんな姿を見るたび、胸の奥がぎゅっとなる。
この人も、ちゃんと寂しいんだって分かるから。
「紗凪」
「ん?」
「向こう行っても毎日電話して」
「するよ」
「テレビ電話も」
「うん」
「あとちゃんとご飯食べて」
「……善処します」
その瞬間。
陽貴くんがじっと私を見る。
「今絶対適当に返事した」
「してない」
「した」
完全に疑われてる。
すると陽貴くんが深いため息を吐いた。
「絶対忙しくなると食べなくなるじゃん」
「……」
否定できない。
するとそのまま額を軽く小突かれた。
「心配なんだって」
「分かってるよ」
私は小さく笑いながら、陽貴くんの肩へ寄りかかった。
するとすぐに頭を撫でられる。
その手が優しくて、安心する。
「陽貴くんは?」
「ん?」
「ドラマ忙しくなるんでしょ」
「まぁね」
陽貴くんは少しだけ苦笑した。
「地方ロケも増えるし、普通に寝れない期間入ると思う」
「大丈夫なの?」
「うん。だって紗凪も頑張ってると思うと俺も頑張ろうって思えるから」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
お互い忙しい。
会えない日も増える。
それでも。
ちゃんと支え合おうとしてくれてるのが分かるから、頑張れる。
私はそっと陽貴くんを見上げた。
「……ねぇ」
「なに?」
「写真撮ろ」
「ん?」
「離れてる時寂しくならないように」
そう言うと。
陽貴くんが一瞬目を丸くしたあと、ふっと優しく笑った。
「……ほんと可愛い」
「なんでそうなるの」
「だって今の完全に彼女すぎた」
「彼女だよ」
私が少しむっとして返すと。
陽貴くんが吹き出した。
「そうでした」
そのまま、ふわっと抱き寄せられる。
「じゃあ撮る?」
「今?」
「今」
そう言って、陽貴くんがスマホを取り出す。
私は少し笑いながら隣へ寄った。
すると。
「もっと近く」
「えぇ」
「恋人感足りない」
「十分近いよ」
「足りない」
結局。
腰を引き寄せられて、完全に腕の中へ収まる形になった。
「っ、近い……」
「いいじゃん」
楽しそう。
そのまま陽貴くんが何枚も写真を撮っていく。
笑ってる顔。
変な顔。
ふざけた写真。
途中からほぼ遊びだった。
でも。
その時間がすごく楽しくて。
気づけば二人で声を上げて笑っていた。
「これお気に入り」
陽貴くんがスマホ画面を見せてくる。
そこには、笑いすぎて私が陽貴くんへ寄りかかってる写真。
自然体で。
すごく幸せそうな顔をしていた。
「…いっぱい撮ったね」
「全部宝物」
さらっと言う。
私は少し照れながら、陽貴くんの肩へ頭を預けた。
すると。
「紗凪」
「ん?」
「あと1週間、いっぱい甘やかすから覚悟して」
耳元で低く囁かれる。
心臓が跳ねる。
私は思わず笑ってしまった。
「……もう十分甘やかされてる気がする」
「まだ足りない」
そう言って。
陽貴くんはまた、私を優しく抱きしめた。

