トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

大阪へ行くまで、残り1週間。

仕事の引き継ぎは、ほとんど終わっていた。

受け持ち患者の情報共有。

フライト関連の申し送り。

後輩への引き継ぎ。

想像以上にやることは多くて、毎日バタバタだったけど、そのおかげで余計なことを考える暇はあまりなかった。

でも家へ帰るたび、少しずつ増えていく段ボールを見ると、嫌でも実感してしまう。

——本当に行くんだ。

大阪へ。

私は床に置かれた荷物を見ながら、小さく息を吐いた。

「……こんなにあったんだ」

「紗凪、服少ない方だと思ってた」

後ろから陽貴くんの声。

振り返ると、ソファに座ったまま私を見ていた。

その表情が、なんだか少し拗ねている。

「どうしたの?」

「……寂しい」

即答。

私は思わず笑ってしまった。

「まだ行ってないよ?」

「でも荷物なくなってくじゃん」

そう言いながら、陽貴くんが私のパーカーを抱きしめている。

しかも普通に頬まで埋めてる。

「……何してるの」

「紗凪補給」

「やめて」

私は呆れながらも、なんだか可愛くて笑ってしまう。

すると陽貴くんがじっとこっちを見る。

「ねぇ」

「ん?」

「紗凪の匂いするやつ置いてって」

「……え?」

一瞬意味が分からなかった。

でも次の瞬間、陽貴くんが真面目な顔で続ける。

「パーカーとか」

「部屋着とか」

「なんなら枕でもいい」

「嫌なんだけど!?」

思わず大きな声が出る。

すると陽貴くんが不満そうに眉を下げた。

「なんで」

「なんでって……!」

「半年だよ?」

「俺生きていけない」

「大袈裟……」

でもその顔が本気すぎて、少しだけ胸がきゅっとなる。

陽貴くん、本当に寂しいんだ。

私と同じように。

そう思ったら、なんだか愛おしくなってしまった。

「……少しだけなら置いてく」

そう言うと。

陽貴くんの目がぱっと輝く。

「ほんと!?」

「う、うん……」

「やった」

嬉しそう。

びっくりするくらい嬉しそう。

私は思わず吹き出した。

「そんな喜ぶ?」

「喜ぶ」

そのまま陽貴くんが立ち上がって、後ろからぎゅっと抱きしめてくる。

「助かった……」

「何が」

「これでなんとか生きれる」

「重症じゃん」

「紗凪不足は深刻だから」

耳元で落ちる声に、また少し笑ってしまう。

すると陽貴くんが私の肩へ顎を乗せたまま、小さく呟いた。

「でもほんとは全部持って行ってほしくない」

その声が少しだけ寂しそうで。

私はゆっくり振り返る。

目が合う。

近い距離。

陽貴くんは少し困ったみたいに笑った。

「……分かってるけどね」

「紗凪が頑張って掴んだ場所だって」

「応援したいってちゃんと思ってる」

「でも好きだから寂しい」

真っ直ぐな言葉。

隠さないところが、陽貴くんらしい。

私はそっと陽貴くんの手へ触れた。

「私も寂しいよ」

そう言うと。

陽貴くんが少しだけ目を細める。

そしてそのまま、優しく抱きしめ直された。

「……じゃあいっぱいくっついとこ」

「大阪行くまで」

その言葉に、私は小さく笑って頷いた。

「うん」

離れる日が近づいている。

寂しい。

不安。

それでも。

こうして“好き”をちゃんと伝え合えるから、きっと大丈夫だと思えた。