静かな部屋に、時計の針の音だけが響く。
陽貴くんは私を抱きしめたまま、ゆっくり髪を撫でていた。
まるで、大事なものを確かめるみたいに。
「……紗凪」
「ん?」
「今日、いつもより甘えん坊だね」
耳元でくすっと笑われる。
少し恥ずかしくなって、私は陽貴くんの胸へ顔を埋めた。
「……だって」
「うん?」
「今日は、いっぱい一緒にいれるから」
そう言った瞬間。
抱きしめる腕が、また少し強くなる。
「……ほんと可愛い」
掠れた声。
その声に、胸がきゅっとなる。
私はそっと陽貴くんを見上げた。
すると目が合う。
近い距離。
柔らかい照明に照らされた横顔が、びっくりするくらい綺麗だった。
「……陽貴くん」
「なに」
「好き」
また素直に言葉が零れる。
すると陽貴くんが一瞬息を止めた。
「……今日ほんとどうしたの」
「分かんない」
「でも、ちゃんと言いたくなった」
離れる日が近づいているからかもしれない。
今、この時間が幸せすぎるからかもしれない。
陽貴くんはしばらく私を見つめたあと、小さく笑った。
でもその目は、どこか余裕がない。
「……無理」
「え?」
「可愛すぎて理性保てない」
「っ……」
顔が熱くなる。
そのまま、優しく頬へ触れられた。
「紗凪」
低い声。
心臓が跳ねる。
「もっとこっち来て」
引き寄せられるまま、私は陽貴くんの胸へ身体を預けた。
するとすぐに、額へキスが落ちる。
頬。
鼻先。
最後に唇。
何度も、ゆっくり。
愛おしむみたいに。
「……好き」
キスの合間に落ちる声。
そのたびに胸がいっぱいになる。
私はそっと陽貴くんの服を掴んだ。
すると陽貴くんが少し目を細める。
「その顔…やば…」
そして、またキス
陽貴くんが息を漏らす。
「……今日はずっとこうしてたい」
「うん」
「明日とか考えないで」
「うん」
そのまま、二人でベットへ沈み込む。
外は静かな夜。
旅館の穏やかな空気に包まれながら、私たちはただ寄り添っていた。
忙しくて。
会えない日も多くて。
寂しくなることもある。
それでも。
こうして触れ合うたび、ちゃんと“好き”が増えていく。
陽貴くんが私の髪へそっとキスを落とした。
「……紗凪」
「ん?」
「大阪行っても、絶対離さないから」
その言葉が嬉しくて。
私は陽貴くんの胸へ頬を寄せながら、小さく笑った。
「……私も」
そう答えると。
抱きしめる腕が、優しく強くなった。

