トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

窓の外には、静かな夜景。

柔らかい間接照明に照らされた部屋の中は、どこか現実じゃないみたいに穏やかだった。

後ろから抱きしめられたまま、私はそっと陽貴くんへ身体を預ける。

「……眠くなってきた?」

耳元で優しい声が落ちる。

「ちょっとだけ」

「今日はいっぱい歩いたもんね」

そう言いながら、陽貴くんが私の髪をゆっくり撫でる。

その手が気持ちよくて、自然と目を細めてしまう。

「紗凪」

「ん?」

「…好き、ほんとに大好き」

不意に落ちてきた言葉に、私はゆっくり振り返った。

陽貴くんの腕の中。

近すぎる距離。

真っ直ぐ見つめてくる瞳が、いつもよりずっと甘い。

胸がぎゅっと熱くなる。

「……急にどうしたの」

照れ隠しみたいにそう聞くと。

陽貴くんが少し困ったように笑った。

「だって今日、改めて思った」

「紗凪とこうして過ごせる時間、幸せだなって」

その声があまりにも優しくて。

胸の奥がじんわり温かくなる。

私はそっと陽貴くんの服を掴んだ。

「……私も」

「うん?」

「陽貴くんが大好きだよ」

ぽつりぽつりと零す言葉。

こんな風に素直に甘えるの、珍しいかもしれない。

でも今日は。

ちゃんと伝えたかった。

離れる未来が近づいているからこそ。

“好き”を、ちゃんと言葉にしたかった。

「……紗凪」

陽貴くんの声が少し掠れる。

私はそのまま、小さく身体を寄せた。

「最近、忙しくて」

「会えてもすぐ寝ちゃったりして」

「ちゃんと甘えられてなかった気がする」

そう言いながら、陽貴くんの胸へ額を押しつける。

すると抱きしめる腕の力が、少しだけ強くなった。

「……ねぇ」

「ん?」

優しく聞き返してくれる。

「今日いっぱい甘えてもいい?」

そう言った瞬間。

ぴたりと空気が止まった気がした。

私は顔を上げる。

すると。

陽貴くんが、完全に固まっていた。

「……陽貴くん?」

「……なにそれ」

低く落ちた声。

さっきまでの余裕が少し消えている。

「紗凪、自分が今どれだけ可愛いこと言ってるか分かってる?」

「え……」

「無自覚?」

陽貴くんが片手で顔を覆い、小さく息を吐く。

「……無理、理性死ぬ」

「っ……!」

一気に顔が熱くなる。

でも次の瞬間。

ぐいっと引き寄せられた。

「っ、陽貴くん……!」

気づけば完全に腕の中へ閉じ込められる。

近い。

「今日の紗凪、ほんと危ない」

耳元で落ちる低い声。

その声だけで心臓が跳ねる。

「だって急に甘えてくるし」

「好きっていっぱい言うし」

「可愛すぎて無理」

そんなこと真っ直ぐ言われて、平然としていられるわけがない。

私は恥ずかしくなって顔を隠そうとする。

でも陽貴くんが逃がしてくれない。

「隠さないで」

優しく頬へ触れられる。

そのまま、そっと唇が重なった。

優しく。

でもどこか熱を帯びたキス。

何度も触れるたび、胸が苦しくなるくらい高鳴る。

離れたあとも、陽貴くんはすごく近い距離で私を見つめていた。

「……紗凪」

低く名前を呼ばれる。

その声が甘すぎて、頭がぼんやりする。

「好き」

また言われる。

何度も。

何度も。

まるで確かめるみたいに。

私は小さく笑って、陽貴くんの首へ腕を回した。

すると。

陽貴くんの目が一瞬見開かれる。

「……ほんと今日だめ」

「絶対俺のこと殺しにきてる」

「そんなつもりないのに……」

「無自覚なのが一番危険」

そう言いながらも、陽貴くんは嬉しそうに笑った。

そのまま、壊れ物を扱うみたいに優しく抱きしめられる。

温かい。

安心する。

私はそっと目を閉じて、陽貴くんへ身体を預けた。

——この人の隣が、やっぱり一番好きだ。

心の底から、そう思った。