トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

紗凪side

朝6時の救命救急センター。

まだ薄暗い廊下を足早に進きながら、私はコーヒーの蓋を開けた。

「……眠」

ぽつりと零れる本音。

今日はフライト担当。

いつヘリ要請が入ってもおかしくない日。

ERへ入ると、すでに梓がカルテを確認していた。

「あ、おはよ紗凪」

「おはよー……」

私が机へ突っ伏すと、梓が呆れたように笑う。

「また寝不足?」

「昨日帰ったの深夜1時」

「それで今日フライトとか元気すぎ」

「元気じゃないよ〜」

すると梓がふっと笑った。

「でも顔は幸せそう」

「……は?」

「どうせ昨日も彼でしょ」

図星すぎて言葉に詰まる。

梓がニヤニヤしながら近づいてきた。

「で?今回は何。“会えない寂しい”とか言ってたくせに結局ラブラブしたの?」

「うるさい」

「否定しないんだ」

「……」

悔しい。

最近、陽貴くんが忙しすぎる。

全国ツアーに加えて俳優業も本格化。

朝早くから深夜まで仕事の日も珍しくなくて、前みたいに頻繁には会えない。

それでも少しの時間を見つけては会いに来てくれる。

疲れてるはずなのに。

「紗凪不足」

そう言って会える日はくっついて離してくれない。

最近ずっとこの調子。

私の寝不足の原因。


佐野陽貴。

国民的人気アイドルグループ『black knight』——通称“黒騎士”のリーダー兼絶対的センター。

歌もダンスも演技も完璧。

ライブチケットは即完売。

ドラマ『ドクターズ〜救命最前線〜』の大ヒット以降、俳優としての人気もさらに加速している。

世間では“完璧王子様”なんて言われてるけど。

実際は、独占欲強めで甘えたがり。ついでにドSな変態で…

そしてものすごく嫉妬深い。

でもどれだけ忙しくても、ちゃんと「会いたい」って言葉にしてくれる。

そしてなにより私を大切に思ってくれているのが心から伝わってくる。

それが、私の恋人。

「……顔緩んでる」

梓の声でハッと現実へ戻る。

「緩んでない」

「いや緩んでる」

「うるさい」

そんなやり取りをしていると。

PHSが鳴った。

同時に、救急隊からのホットライン。

一気に空気が変わる。

梓が即座に受話器を取った。

「はい、中央大学病院ERです」

表情が切り替わる。

私も自然と気持ちを切り替えた。

「……交通外傷、ドクヘリ要請入ります」

梓がこっちを見る。

「紗凪、出動」

「了解」

さっきまでの緩んだ空気が、一瞬で消える。

私はすぐに立ち上がった。

命の最前線へ向かうために。