トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

夜ご飯を食べながら。

私たちは、今日あったことをゆっくり話していた。

「で、梓ちゃんほんとにそんなサラッと言ったの?」

「うん。“付き合ったし”って」

「ふはっ」

陽貴くんが吹き出す。

「想像できる」

「梓ちゃん強いなぁ」

「ほんとに」

私は笑いながら、味噌汁へ口をつけた。

向かいに座る陽貴くんも、どこか嬉しそうだった。

仕事終わりで疲れてるはずなのに。

こうして一緒にご飯を食べているだけで、空気が柔らかい。

テレビの音が小さく流れている。

湯気の立つご飯。

他愛ない会話。

そんな“普通”が、たまらなく愛おしかった。

私はふと、陽貴くんを見る。

「今日撮影どうだった?」

すると陽貴くんが少し肩を回した。

「疲れた」

「おつかれさまでした」

「でも帰ってきたら紗凪いたから回復した」

さらっと言う。

ほんと、こういうところずるい。

私は少し照れながらご飯を口へ運んだ。

すると。

陽貴くんが、不意に静かになる。

「……紗凪」

「ん?」

その声が、少しだけ真面目で。

私は自然と箸を止めた。

陽貴くんは数秒迷うみたいに視線を落として。

それから、ゆっくり顔を上げた。

「同棲しない?」

「——え?」

一瞬。

言葉の意味が入ってこなかった。

私はぱちぱち瞬きをする。

陽貴くんは、まっすぐ私を見ていた。

ふざけてる顔じゃない。

冗談でもない。

真剣な目。

私は少し息を止める。

「……え、っと」

頭が追いつかない。

同棲。

今。

陽貴くん、そう言った?

私が固まっていると。

陽貴くんが、小さく笑った。

「そんな驚く?」

「だって……急に……」

「うん」

そう言いながら。

陽貴くんが、少しだけ視線を落とす。

「でも、この半年で思ったんだよね」

静かな声だった。

私は自然と、その続きを待つ。

陽貴くんがゆっくり言葉を選ぶ。

「会えない時間、めちゃくちゃ長かったじゃん」

「……うん」

「紗凪が事故に遭った時も」

「俺、何もできなくて」

その声が、少し掠れていた。

私は小さく目を見開く。

陽貴くんは苦笑する。

「もちろん仕事だから仕方ないんだけど」

「それでも、隣にいたかったって何回も思った」

胸が、ぎゅっと締め付けられる。

私は静かに聞いていた。

陽貴くんが続ける。

「だから」

「帰ってきて、一緒に暮らして」

「“おかえり”って言い合えるだけで、すごい安心した」

その言葉に。

今日の夜を思い出す。

玄関を開けた瞬間の顔。

抱きしめてきた温度。

“帰ってきたら紗凪いるの、いい”って言った声。

全部、本音だったんだ。

私は少し俯く。

胸の奥が、じわじわ熱くなる。

すると。

陽貴くんが少し困ったみたいに笑った。

「……もちろん、急に言われても困るよね」

「嫌なら全然——」

「……嫌じゃない」

反射的に言っていた。

陽貴くんが、目を丸くする。

私はハッとして、一気に顔が熱くなった。

でも。

私もちゃんと素直になりたかった。

私はぎゅっと指先を握る。

「……実はね」

「私も、一緒に住めたらいいなって思ってたの」

そう言った瞬間。

陽貴くんの表情が、ゆっくり崩れる。

「……まじで?」

掠れた声。

「やば……」

その声が、本当に嬉しそうで。

私はますます恥ずかしくなって顔を隠した。

陽貴くんが小さく笑う。

それからそっと手を伸ばして、私の手へ触れた。

「紗凪」

優しい声。

私はゆっくり顔を上げる。

陽貴くんは、本当に穏やかな顔をしていた。

「ちゃんと大事にする」

真っ直ぐだった。

その一言が。

胸に深く落ちてくる。

私は、ゆっくり息を吐く。

それから。

少しだけ照れながら、小さく笑った。

「……私」

「陽貴くんと一緒に帰る家が好き」

その瞬間。

陽貴くんの表情が、ふっと崩れる。

嬉しそうに。

安心したみたいに。

柔らかく笑った。

「……それ、OKって思っていい?」

私は恥ずかしくなりながらも、そっと頷く。

「……うん」

次の瞬間。

陽貴くんが立ち上がった。

「え、ちょ」

そのまま私の隣へ来て、ぎゅっと抱きしめる。

「嬉しい」

耳元で落ちた声が、少し震えていた。

私は胸がいっぱいになる。

そんな私へ、陽貴くんが小さく笑う。

「やばい」

「今すぐ引っ越ししたい」

「え?ここに住むんじゃないの?」

そう言うと。

陽貴くんが、当たり前みたいに首を横へ振った。

「ダメだよ」

「紗凪と住むんだから、もっと広くて」

「セキュリティもちゃんとしてて」

「紗凪を絶対守れる場所にしないと」

あまりにも自然に言うから。

私は一瞬、言葉を失った。

それから。

じわっと頬が熱くなる。

「……そういうこと、さらっと言う」

私が小さく呟くと。

陽貴くんが、私の髪へ顔を埋める。

「だって本気だもん」

低く落ちた声。

そして。

ぎゅっと抱きしめる力が、少しだけ強くなる。

「俺はね」

「紗凪が何より大切なんだ」

真っ直ぐだった。

迷いなんて一つもない声。

その言葉が、胸の奥へ静かに染み込んでいく。

私は思わず笑ってしまう。

嬉しくて。

照れくさくて。

泣きそうなくらい幸せで。

そして同時に思う。

——あぁ。

私も同じなんだって。

もう。

この人がいる場所を、“帰る場所”にしたいって。