トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

病院を出る頃には。

外はすっかり夕方になっていた。

ガラス張りのエントランスへ、オレンジ色の光が差し込んでいる。

私は肩へバッグを掛け直しながら、ゆっくり外へ出た。

私はそのまま、駅前のスーパーへ向かった。

自動ドアが開く。

ひんやりした空気。

野菜コーナーの匂い。

夕方のタイムセールの声。

カゴを持ちながら歩く人たち。

そんな何気ない光景が、なんだかすごく懐かしかった。

大阪にいる間も買い物はしていた。

でもこうして“東京で”“陽貴くんと過ごす家のために”買い物をする感覚が、久しぶりで。

胸がじんわり温かくなる。

私はカゴを取りながら、小さく笑った。

……帰ってきたんだなぁ。

野菜コーナーを歩く。

何作ろう。

そんなことを考える時間すら幸せだった。

陽貴くん、今日遅いかな。

撮影終わったら疲れてるだろうし。

消化いいもののほうがいいかな。

でもお肉も食べさせたい。

私は商品を見ながら悩む。

その時。

スマホが震えた。

《陽貴くん》

私は自然と笑ってしまう。

「もしもし?」

『紗凪、どこ?』

「スーパーだよ」

『よしっ』

電話越しに陽貴くんが笑う。

「なんのよしなの?」

その笑い声を聞きながら、私は豆腐をカゴへ入れた。

『紗凪のご飯食べれるから』

その言葉に胸がきゅっとなる。

『何作るの?』

「まだ考え中」

大阪にいた半年。

会えなかった時間。

一緒にご飯を食べることすら、簡単じゃなかった。

私は少しだけ口元を緩める。

「……何食べたい?」

すると少し間が空く。

『紗凪が作ったやつならなんでも』

その返事がずるい。

私は思わず笑った。

「それ答えになってない」

『じゃあ…紗凪の作るオムライスがいい』

私は野菜を選びながら、小さく笑う。

「わかった」

『やった』

電話越しなのに、声が明るくなる。

分かりやすすぎる。

私はふと、お菓子コーナーへ目を向けた。

陽貴くんが好きなお菓子。

自然と手が伸びる。

その瞬間。

自分でも少し笑ってしまった。

こういうの。なんか恋人っぽい。

一緒に住んで。

相手の好きなもの覚えて。

帰ってくる時間を考えてご飯作って。

そんな“普通”が。

今の私には、すごく幸せだった。

「……ねぇ陽貴くん」

『んー?』

「今ね、普通のことしてるだけなのに」

「なんかすごい幸せ」

そう言うと。

電話の向こうが少し静かになる。

それから。

『……俺も』

優しい声。

私は胸がじんわり熱くなる。

スーパーの明るい照明の中。

カゴを持ったまま。

私は小さく笑った。

きっと。

こういう何気ない日常が、一番欲しかったものなのかもしれない。