トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

料理を食べながら。

私たちは、ゆっくり言葉を重ねていった。

病院の外で。

こうして落ち着いて向かい合って話すのなんて、本当に久しぶりだった。

私はスープを口に運びながら、小さく笑う。

「なんか、変な感じ」

「ん?」

「電話だと普通に話せてたのに」

「今ちょっと緊張する」

そう言うと。

陽貴くんが少し目を細めた。

「俺も」

フォークを持ったまま、陽貴くんが苦笑する。

「だって半年ぶりにちゃんと向かい合ってる」

「……確かに」

「しかも今日の紗凪、なんか柔らかいし」

「柔らかい?」

「前より甘える」

私は少しだけ目を逸らした。

自覚がないわけじゃなかった。

事故に遭って。

死ぬかもしれないって思って。

離れてる時間も長くて。

だから余計に。

“会えること”とか、“隣にいられること”が特別になった気がする。

私は小さく笑った。

「……前は、ちゃんと甘えれてなかったのかも」

その瞬間。

陽貴くんが少し驚いた顔をする。

「だって陽貴くん忙しいし」

「わたしも仕事ばっかだったし」

「なんか……迷惑かけないようにしなきゃって思ってた」

言いながら、自分でも少し不思議だった。

前の私は。

“支え合う”より、“ちゃんとしなきゃ”って気持ちが強かった気がする。

でも今は違う。

陽貴くんが静かに私を見る。

その視線が優しくて。

私は続けた。

「でも今回、いっぱい支えてもらったから」

「ちゃんと頼っていいんだなって思った」

その言葉に。

陽貴くんが、ふっと苦しそうに笑った。

「……もっと頼ってよ」

掠れた声。

私は目を瞬く。

陽貴くんは少し視線を落として、小さく息を吐いた。

「紗凪ってさ」

「うん」

「一人で頑張りすぎるから」

「俺、何回も不安になった」

私は静かに聞く。

陽貴くんが、ゆっくり言葉を続けた。

「“大丈夫”って言う時ほど無理してるし」

「しんどい時ほど笑うし」

「俺の前でまで強くいなくていいのにって、ずっと思ってた」

その声が、あまりにも真っ直ぐで。

胸がじわっと熱くなる。

私は少し笑う。

「……看護師の職業病かも」

「患者さんには弱い顔見せれないから」

すると陽貴くんが、小さく頷いた。

「うん、分かる」

「でも」

そこで私を見る。

「俺には、弱い紗凪もちゃんと見せて」

静かな声だった。

私はその言葉に、少しだけ目を伏せる。

事故のあと。

泣いて。

怖くて。

動けなくて。

そんな姿をいっぱい見せてしまった。

前の私なら、絶対嫌だったと思う。

でも陽貴くんは一度も嫌な顔しなかった。

むしろ何度も抱きしめてくれた。

私は小さく笑った。

「……じゃあ、これからいっぱい甘えるね」

その瞬間。

陽貴くんが、あからさまに顔を覆う。

「やばい」

「また?」

「今日の紗凪ほんとかわすぎて無理」

「なにそれ」

私は笑ってしまう。

すると陽貴くんが、少しだけ真面目な顔になる。

「でもほんとに」

「紗凪が帰ってきてくれて安心した」

「家も、やっと家っぽい」

その言葉に、胸がきゅっとなる。

私はフォークを置いて、小さく笑った。

「……陽貴くんも寂しかった?」

「めちゃくちゃ」

即答だった。

「ライブ終わって帰っても静かだし」

「電話切れたあと普通に寂しいし」

「コンビニで紗凪好きそうなの見るたび買いそうになるし」

「それは重症」

「重症だったよ」

そう言って笑う。

でも。

その笑顔の奥に、本当に寂しかった時間が見えた。

私は少しだけ身を乗り出す。

「……ごめんね」

すると。

陽貴くんがすぐ首を横に振った。

「違う」

真っ直ぐな声。

「帰ってきてくれたから、もういい」

その言葉に。

胸がいっぱいになる。

私はそっとテーブルの上で、陽貴くんの手に触れた。

すると陽貴くんが、自然みたいに指を絡めてくれる。

そのまま。

少しだけ笑って言った。

「……ねぇ紗凪」

「ん?」

「これからは、ちゃんと同じ時間増やそうね」

私はゆっくり頷く。

「……うん」

「仕事も大事」

「でも」

陽貴くんが少し照れたみたいに笑った。

「俺、紗凪との時間もちゃんと大事にしたい」

その言葉が嬉しくて。

私は小さく笑った。

「……じゃあまず」

「なに?」

「次のお休み、デートしたい」

その瞬間。

陽貴くんが、目に見えて嬉しそうな顔をした。

「行く」

「当たり前じゃん」

そう言って笑う顔が、幸せそうで。

私はまた思う。

——この人の隣に帰ってこられて、本当によかった。