トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-

——羽田空港。

到着ロビーの扉が開いた瞬間。

一気に人の波と音が押し寄せてくる。

キャリーケースの音。

誰かを呼ぶ声。

アナウンス。

慌ただしく行き交う人たち。

私はキャリーケースを引きながら、その光景をぼんやり見つめた。

東京だ。

帰ってきたんだ。

そう思った瞬間。

胸の奥が、じわっと熱くなる。

半年。

長かったようで、あっという間だった。

色んなものが頭の中を過ぎっていく。

でも。

次の瞬間。

そんな景色が全部、消えた。

人混みの向こう。

帽子とマスク姿。

少し深めに被ったキャップ。

黒いパーカー。

周囲に紛れるような格好なのに。

私には、一瞬で分かった。

——陽貴くん。

その瞬間。

胸がぎゅうっと締め付けられる。

会いたかった。

本当に。

苦しいくらい。

毎日連絡は取ってた。声も聞いてた。テレビ電話もしてた。

でも。

触れられなかった。

抱きしめてもらえなかった。

隣にいなかった。

その全部が、急に込み上げてくる。

陽貴くんも、私に気づいた。

目が合う。

その瞬間。

陽貴くんの表情が、一気に柔らかくなる。

私はもう、我慢できなかった。

キャリーケースの持ち手を離して。

人混みの中を、走り出す。

「紗凪っ……」

陽貴くんが少し驚いた声を出す。

でも私は止まれない。

会いたかった。

会いたかった。

会いたかった。

ずっと。

ずっと抱きしめてほしかった。

私はそのまま、陽貴くんへ飛び込むみたいに抱きついた。

ぎゅうっと。

力いっぱい。

陽貴くんの身体が、少しよろける。

でもすぐ、大きな腕が私を抱きしめ返した。

強く。

壊れ物みたいに優しく。

「……っ」

胸がいっぱいになる。

大好きな甘い香りに包まれる。

あぁ。

帰ってきた。

やっと。

本当に。

私は顔を埋めたまま、小さく笑う。

涙が滲みそうになるのを堪えながら。

「……ただいま、陽貴くん」

掠れそうな声。

でも。

ちゃんと笑って言えた。

すると。

陽貴くんの腕に、ぎゅっと力が入る。

「……おかえり」

震える声だった。

私はゆっくり顔を上げる。

近くで見る陽貴くんは、少し痩せていた。

きっと忙しかったんだと思う。

でも。

その目は優しくて。まっすぐで。

陽貴くんが、泣きそうなくらい優しく笑う。

「ほんとに帰ってきた……」

その声を聞いた瞬間。

私の目から、ぽろっと涙が落ちた。

「あっ……」

慌てて拭こうとすると。

陽貴くんが苦笑する。

「なんで泣くの」

「……だって」

声がうまく出ない。

陽貴くんはそんな私を見て、困ったみたいに笑った。

それから。

そっと額を合わせる。

「頑張ったね」

たったその一言で。

張っていたものが、全部ほどけそうになる。

私は泣きながら笑った。

「……うん」

陽貴くんが、また優しく抱きしめてくれる。

空港の喧騒なんて、もう何も聞こえなかった。

今、私の世界には。

この人しかいなかった。