トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

「……もしもし」

『紗凪?』

聞こえた瞬間。

疲れが少しだけ溶けるみたいだった。

私はソファへ深く座り直す。

「お疲れさま」

『紗凪も』

電話越しの声は、少し掠れていた。

きっと今日もライブだったんだろう。

後ろから微かに人の声が聞こえる。

まだ会場近くなのかもしれない。

「今ニュース見てた」

『なんの?』

「黒騎士全国ツアー大盛況だって」

そう言うと。

電話越しに、小さく笑う声。

『なんか恥ずかしい』

「なんで」

『紗凪に見られるの、普通に照れる』

その返答が可愛くて。

私は思わず笑ってしまう。

「ファンの人聞いたら怒るよ」

『でも紗凪は特別だから』

さらっと言う。

ほんと、こういうところずるい。

私は少し頬を緩めながら、テレビ画面を見る。

ちょうどライブ映像が流れていた。

キラキラした照明。

大歓声。

その真ん中にいる陽貴くん。

でも。

電話越しの声は、今ちゃんと私だけに向いてる。

それが嬉しかった。

『紗凪は?今日どうだった?』

私は少し息を吐く。

「……疲れた」

『あはは、素直』

「シミュレーションもあったし、現場同行もあったし……」

「帰ってきた瞬間、足終わったって思った」

すると陽貴くんが吹き出した。

『頑張りすぎなんだって』

「森崎さんにも言われた」

名前を出した瞬間。

電話の向こうが、一瞬静かになる。

私は少しだけ目を伏せた。

でも。

陽貴くんはすぐ、いつもの声へ戻った。

『でも紗凪、復帰できてほんとよかった』

その言葉が、優しかった。

私は小さく笑う。

「……うん」

『ニュースとかでヘリ見るたび、まだちょっと怖かったから』

「……怖かった?」

『また紗凪が無茶するんじゃないかって』

その声に。

胸がじわっと熱くなる。

私はクッションを抱きしめながら、小さく呟く。

「でも、戻りたかったんだ」

『うん』

「やっぱり、あそこが好きだから」

電話の向こうで。

陽貴くんが、少しだけ笑った気がした。

『知ってる』

短い言葉。

でも。

全部分かってくれてる声だった。

その時。

テレビから歓声が響く。

画面の中では、ライブ終盤の映像が流れていた。

汗だくで笑う黒騎士。

肩を組むメンバーたち。

私はそれを見ながら、ふと思う。

この人も。

命削るみたいに頑張ってるんだなって。

私が現場へ向かうように。

陽貴くんも、ステージへ立ってる。

戦う場所が違うだけで。

きっと同じなんだ。

『……紗凪』

「ん?」

『会いたい』

突然、静かに落ちた声。

私は少し息を止める。

陽貴くんが続ける。

『今すぐ大阪行きたい』

『隣で寝たい』

『一緒にご飯食べたい』

『抱きしめたい』

一つ一つ。

噛みしめるみたいな声だった。

私は思わず笑ってしまう。

「欲望だだ漏れ」

『だって会えてない』

少し拗ねた声。

その声が愛おしくて。

私はソファへ身体を預けながら、小さく目を閉じた。

「……わたしも会いたい」

そう言った瞬間。

電話の向こうが、少し静かになる。

きっと。

陽貴くん、今すごい顔してる。

そう思ったら、自然と笑みが零れた。

『……やばい』

「なにが?」

『今そのまま大阪行きそう』

「ダメです」

『即答』

また二人で笑う。

離れてても。

忙しくても。

こうして笑えるだけで、少し安心できた。

私は窓の外の夜景を見ながら、静かに思う。

——ちゃんと前へ進めてる。

私たちも。

きっと。