トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

ある日の勤務を終えて。

私は久しぶりに、少しだけ早く家に戻ることができた。

玄関の扉を開ける。

シン、と静かな部屋。

事故直後は、この静けさが怖かった。

でも今は。

“ちゃんと帰ってこられる場所”って思える。

靴を脱いで。

ソファへ荷物を置く。

「……つかれた」

ぽすっと力が抜ける。

今日は講義にシミュレーション。

午後は現場同行。

復帰してから毎日、頭も身体もフル回転だった。

でも。

不思議と嫌な疲れじゃない。

私は適当に髪をまとめ直して、コンビニで買ったご飯を机へ並べる。

レンジの音。

ぼんやりした部屋の明かり。

なんだか久しぶりの、一人の夜だった。

テレビをつける。

何気なくニュースを眺めながら、ご飯を口へ運ぶ。

すると。

『——続いてはエンタメニュースです』

アナウンサーの声。

画面が切り替わる。

その瞬間。

思わず、箸を持つ手が止まった。

『黒騎士、全国ツアー大盛況——』

大型モニターに映し出されたのは。

ステージ上で歌う、黒騎士のメンバーたちだった。

歓声。

ペンライト。

熱気。

画面越しでも伝わるライブ会場の空気。

そして。

センターで笑う、陽貴くん。

「……」

胸が、じわっと熱くなる。

ライブ映像の中の陽貴くんは、キラキラしていた。

疲れてるはずなのに。

そんなの一切見せないくらい。

真っ直ぐ前を向いて。

たくさんの人を笑顔にしていた。

『今回のツアーは過去最大規模となっており——』

ニュースが続いていく。

私はぼんやりテレビを見つめた。

会いたいな。

ふと、そんな気持ちが込み上げる。

最近はまた、お互い忙しかった。

私は復帰したばかり。

陽貴くんは全国ツアー真っ最中。

前みたいに頻繁に連絡できるわけじゃない。

それでも。

毎日、“おはよう”と“おやすみ”だけは欠かさない。

短いメッセージでも。

それだけで安心できた。

画面の中で、インタビューを受ける陽貴くんが笑う。

『支えてくれる人たちのおかげです』

その言葉に。

私は少しだけ目を細めた。

ちゃんと頑張ってるんだ。

陽貴くんも。

私も。

違う場所で。

それぞれ。

その時。

テーブルの上のスマホが震える。

画面を見る。

『陽貴くん』

思わず笑ってしまった。

タイミング良すぎる。

私はすぐ電話へ出る。

「……もしもし」

すると。

『紗凪?』

聞こえた瞬間。

疲れが少しだけ溶けるみたいだった。