トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

育成プロジェクトは、気づけば中期に差し掛かっていた。

最初は緊張でいっぱいだった育成生たちも。

今では現場の空気に少しずつ慣れ始めている。

搬送前の動き。

医師との連携。

資機材確認。

報告のタイミング。

一つ一つに、“経験”が滲むようになっていた。

もちろん、まだ荒い。

判断も遅いし。

視野も狭くなる。

でも確実に前へ進んでいた。

午前中のシミュレーション訓練。

今回は多発外傷症例。

育成生たちが慌ただしく動く中。

私は少し後ろから全体を見ていた。

「血圧下がってます!」

「酸素飽和度92!」

「ルート確保いきます!」

飛び交う声。

張り詰めた空気。

事故前までの私は、きっと真っ先に前へ出ていた。

でも今は違う。

“教える立場”として、見る視点が増えていた。

その時。

「一ノ瀬さん」

隣で記録を見ていた斉賀さんが、小さく声をかける。

「この場面なら、どこ優先で見ます?」

私は少し考える。

「……まず全体」

「誰が見えてなくて、どこ詰まってるか」

「処置そのものより、“チームが回ってるか”を見たいですね」

斉賀さんが真剣な顔で頷く。

その姿に。

あぁ、本当に指導者になったんだなって思った。

神波さんも別チームで育成生へ声をかけている。

「そこ先読んで動こう!」

「先生に言われる前に準備!」

…すごい。

私は少し笑う。

置いていかれないようにしなきゃ。

そんな気持ちが、自然と湧いてくる。

訓練終了後。

育成生たちが一気に床へ座り込む。

「無理ぃ……」

「頭パンクする……」

その姿に、講義室が笑いに包まれた。

すると。

後ろから森崎さんが資料を片手に入ってくる。

「はいはい、そこで終わった顔せん」

「現場もっと地獄やでー」

「主任鬼ぃ……」

誰かが呟く。

森崎さんは聞こえないふりをして、そのままホワイトボード前へ立った。

「ほな振り返りやるで」

その瞬間。

空気がまた切り替わる。

私はその姿を見ながら、少しだけ目を細めた。

森崎さんは、本当にすごい。

現場でも。

教育でも。

全体を見る力が圧倒的だった。

私が事故で抜けていた間も。

この人が、ずっとプロジェクトを回していたんだ。

だからこそ。

私は改めて思う。

ちゃんと力になりたいって。

このチームの一員として。

失った時間を取り戻せるくらい。

もっと頑張りたいって。

その時。

「一ノ瀬さん」

森崎さんが、不意にこちらを見る。

「次の振り返り、一緒入ります?」

私は少し目を丸くする。

「……いいんですか?」

「そろそろ復帰リハビリ卒業してもらわな困るし」

少し意地悪そうな笑顔。

私は思わず笑った。

「……厳しい」

そんなやり取りに、また周りが笑う。

その空気が、心地よかった。

ここには。

ちゃんと自分の居場所がある。

そう思えた。