俯いたまま。
しばらく何も言わない。
静かな会議室。
遠くで聞こえるERの音だけが、微かに響いていた。
やがて。
橘さんが、震える声で口を開く。
「……私も」
小さな声。
消えてしまいそうなくらい弱い声だった。
「戻りたい、です」
私は静かに顔を上げる。
橘さんは涙を拭いながら、必死に言葉を続けた。
「また飛びたい」
「また、みんなと現場行きたい」
「一ノ瀬さんとも……また、乗りたいです」
その瞬間。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
私は小さく笑った。
「……うん」
すると橘さんが、また泣きそうに顔を歪める。
「でも怖いんです……!」
「ヘリの音聞くと、あの日思い出して」
「一ノ瀬さんが倒れた瞬間とか」
「血とか……」
呼吸が乱れ始める。
私は慌てて椅子を少し近づけた。
「橘さん」
「大丈夫」
「今、ここ会議室だから」
「ヘリも飛んでない」
ゆっくり声をかける。
橘さんは必死に呼吸を整えながら、小さく頷いた。
私はその姿を見ながら、静かに言った。
「怖くなくなるまで、待つよ」
橘さんが、ゆっくり顔を上げる。
「……え」
「無理に乗らなくていい」
「今すぐ戻らなくてもいい」
「でも」
私は少し笑った。
「橘さん、ちゃんと“戻りたい”って思えてる」
「それ、すごく大事だと思う」
その言葉に。
橘さんの目から、また涙が落ちた。
「……一ノ瀬さん」
「ん?」
「なんで、そんな優しいんですか……」
掠れた声。
私は少し困ったみたいに笑った。
「優しくなんかないよ」
「わたしも、みんなに支えてもらったから」
森崎さん。
梓。
陽貴くん。
先生たち。
たくさんの人に支えられて、ここまで戻ってこられた。
だから今度は。
自分が、誰かの隣にいたいと思った。
私はそっと立ち上がる。
そして。
「今日は、一緒に帰ろ」
そう言って、橘さんへ手を差し出した。
橘さんは目を丸くしたあと。
少し迷ってから。
震える手で、私の手を取った。
その温度が。
少しだけ、前へ進めた気がした。
しばらく何も言わない。
静かな会議室。
遠くで聞こえるERの音だけが、微かに響いていた。
やがて。
橘さんが、震える声で口を開く。
「……私も」
小さな声。
消えてしまいそうなくらい弱い声だった。
「戻りたい、です」
私は静かに顔を上げる。
橘さんは涙を拭いながら、必死に言葉を続けた。
「また飛びたい」
「また、みんなと現場行きたい」
「一ノ瀬さんとも……また、乗りたいです」
その瞬間。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
私は小さく笑った。
「……うん」
すると橘さんが、また泣きそうに顔を歪める。
「でも怖いんです……!」
「ヘリの音聞くと、あの日思い出して」
「一ノ瀬さんが倒れた瞬間とか」
「血とか……」
呼吸が乱れ始める。
私は慌てて椅子を少し近づけた。
「橘さん」
「大丈夫」
「今、ここ会議室だから」
「ヘリも飛んでない」
ゆっくり声をかける。
橘さんは必死に呼吸を整えながら、小さく頷いた。
私はその姿を見ながら、静かに言った。
「怖くなくなるまで、待つよ」
橘さんが、ゆっくり顔を上げる。
「……え」
「無理に乗らなくていい」
「今すぐ戻らなくてもいい」
「でも」
私は少し笑った。
「橘さん、ちゃんと“戻りたい”って思えてる」
「それ、すごく大事だと思う」
その言葉に。
橘さんの目から、また涙が落ちた。
「……一ノ瀬さん」
「ん?」
「なんで、そんな優しいんですか……」
掠れた声。
私は少し困ったみたいに笑った。
「優しくなんかないよ」
「わたしも、みんなに支えてもらったから」
森崎さん。
梓。
陽貴くん。
先生たち。
たくさんの人に支えられて、ここまで戻ってこられた。
だから今度は。
自分が、誰かの隣にいたいと思った。
私はそっと立ち上がる。
そして。
「今日は、一緒に帰ろ」
そう言って、橘さんへ手を差し出した。
橘さんは目を丸くしたあと。
少し迷ってから。
震える手で、私の手を取った。
その温度が。
少しだけ、前へ進めた気がした。

