トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

「失礼しまーす」

聞き慣れた声。

私は思わず目を見開く。

「……森崎さん」

そこに立っていたのは、いつも通りの森崎さんだった。

フライトスーツ姿。

コンビニ袋片手。

まるでこの2日間なんて何もなかったみたいに、自然な顔。

「なんやその顔」

森崎さんが吹き出す。

「幽霊見たみたい」

「……来ないから」

思わずそう零すと。

森崎さんが少しだけ目を細めた。

「あー……ちょっと忙しくて」

その言い方が、少しだけ不自然だった。

でも。

私は追及できなかった。

森崎さんはいつも通りベッド横へ座る。

「一般病棟まで来たんやなぁ」

「ほんま、頑張ったな」

優しい声。

私は小さく笑う。

「……先生に、もう少しで退院できるって言われました」

その瞬間。

森崎さんの顔が、ぱっと明るくなった。

「ほんま!?」

「めっちゃすごいやん!」

本気で嬉しそうな顔。

その表情を見て。

胸が少し締め付けられる。

「よかったぁ……」

森崎さんが、安心したみたいに息を吐く。

「これでようやく皆に完全復活詐欺できるな」

「詐欺ってなんですか」

「いや絶対復帰した瞬間また無茶するやろ」

「しません」

「する顔してる」

そんな風に笑い合って。

でも。

私は、ちゃんと伝えなきゃって思った。

「……森崎さん」

その瞬間。

森崎さんの表情が、少しだけ変わった。

私はぎゅっとシーツを握る。

「……あの」

言葉が詰まる。

でも。

森崎さんは、そんな私を見てふっと笑った。

少しだけ。

寂しそうに。

「うん」

そして。

静かな声で言った。

「ちゃんと俺を振って」

私は目を見開いた。

「……え」

あまりにも真っ直ぐ言われて、頭が追いつかない。

森崎さんは苦笑する。

「なんでそんなびっくりすんの」

「いや、でも……」

すると森崎さんが、少し視線を逸らした。

「そりゃあ」

小さく笑う。

「あんだけ彼氏とラブラブなん見せられたら、俺に勝ち目ないわ」

その言葉に、胸が痛む。

森崎さんは続ける。

「紗凪ちゃんを、あんな顔にさせられるんは」

少しだけ目を細める。

「あの子だけや」

陽貴くんと一緒にいた時の私を、見てたんだ。

そう思った瞬間。

涙が込み上げそうになる。

すると森崎さんが、すぐ困ったみたいに笑った。

「ちょ、泣かんといて」

優しい声。

「紗凪ちゃんが悪いんとちゃうんやから」

その言葉が、また苦しい。

私は唇を噛む。

森崎さんは少しだけ息を吐いてから、いつもの口調で続けた。

「俺は、今まで通り毎日来るし」

「普通に接する」

「でも」

そこで一瞬だけ間を置く。

「ちゃんと切り替えるから」

「主任として」

その言葉に。

胸がぎゅっと締め付けられた。

だって。

その“切り替える”が、簡単じゃないことくらい分かるから。

森崎さんは、そんな私を見てふっと笑った。

「そんな顔せんで」

「失恋くらいで仕事放り出すほどガキちゃうよ」

冗談っぽく笑う。

でも。

その笑顔の奥にある痛みを、私は見てしまった気がした。

それでも森崎さんは。

最後まで優しかった。