トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

陽貴くんは、私に袖を掴まれたまま嬉しそうに笑っていた。

その顔を見てるだけで。

胸の奥が、じんわり温かくなる。

「……ほんと帰りたくない」

ぽつりと零れた声。

真顔で言うから、思わず吹き出してしまう。

すると陽貴くんが、持っていたコンビニ袋をガサガサ漁った。

「はい」

出てきたのは、温かいカフェラテ。

それと小さいサンドイッチ。

「朝ごはん」

「……ありがとう」

「紗凪、最近ちゃんと食べれてる?」

「……がんばってる」

「えらいえらい」

そんなやり取りが、幸せだった。

事故に遭う前みたいな。

普通の恋人同士みたいな時間。

私はカフェラテを少し飲む。

温かさが身体へ落ちていく。

陽貴くんは、その様子をじっと見ていた。

「……なに」

「いや」

ふっと笑う。

「普通に笑ってる紗凪見れるの、久しぶりだなって」

その言葉に胸が少しだけ苦しくなる。

きっと陽貴くんも、ずっと怖かったんだ。

私がいなくなるかもしれないって。

私はそっと手を伸ばす。

陽貴くんの頬へ触れる。

少し痩せた気がした。

「……陽貴くん、ご飯ちゃんと食べてる?」

「食べてるよ」

「嘘」

即答すると、陽貴くんが苦笑する。

「バレた?」

「痩せすぎだよ」

「紗凪に言われても」

そう言って笑うけど。

やっぱり少し疲れてる。

私は小さく眉を寄せた。

「……無理しないで」

すると陽貴くんが、ゆっくり私の手へ自分の手を重ねた。

「俺より紗凪のほうが無茶する」

否定できなくて黙る。

すると陽貴くんが、優しく笑った。

「でも紗凪が生きてくれるなら俺はそれでいい」

静かな声だった。

私は息を呑む。

陽貴くんは、そのまま続ける。

「ほんとに、それだけでいいって思った」

「……」

「もう会えないかもって思った時」

「頭おかしくなりそうだった」

その声が震えていて。

私は胸が締め付けられる。

だから私は、陽貴くんの手をぎゅっと握り返した。

「……ごめんね」

すると陽貴くんが、すぐ首を横に振る。

「謝んないで」

「紗凪が悪いわけじゃない」

「でも心配かけた」

「うん、めちゃくちゃかけた」

「……」

「寿命縮んだ」

真顔で言うから、私は思わず笑ってしまった。、

すると陽貴くんも、つられたみたいに笑った。

その後も。

他愛ない話をたくさんした。

黒騎士のみんなの話。

梓の話。

その時間が、本当に愛おしかった。

でも。

時計の針だけは、残酷なくらい進んでいく。

気づけばもう陽貴くんが出ないといけない時間になっていた。

部屋の空気が、一気に静かになる。

陽貴くんも、分かりやすく黙った。

私は小さく笑う。

「……そんな顔しないで」

「無理」

即答。

私は苦笑する。

陽貴くんは、ベッド横へしゃがみ込んだ。

そして。

そっと私の手を包む。

「次来る時」

「もっと元気な紗凪見れる?」

その声に。

私はゆっくり頷いた。

「……うん」

「ちゃんとリハビリ頑張る」

すると陽貴くんが、少し安心したみたいに笑う。

「えらい」

そう言って。

私の額へ、そっとキスを落とした。

胸が熱くなる。

私は涙を堪えながら笑った。

「……陽貴くん」

「ん?」

「大好き」

その瞬間。

陽貴くんの表情が、ぐしゃっと崩れる。

「……ほんと反則」

泣きそうに笑いながら。

私を、そっと抱きしめた。

「俺も」

掠れた声。

「めちゃくちゃ好き」

その温もりを、私は忘れないようにぎゅっと抱きしめ返した。

やがて。

本当に時間が来る。

陽貴くんは、何回も振り返りながら病室を出ていった。

扉が閉まる直前。

「またすぐ来るから!」

って、少し大きめの声で言って。

私は笑いながら、小さく手を振った。

扉が閉まる。

静かになった病室。

でも不思議と。

今度は前みたいな寂しさだけじゃなかった。

——また会える。

そう思えたから。