トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-

夜ご飯の時間になると。

看護師さんが、二人分の食事を運んできてくれた。

「ご家族用に簡単なものですけど、どうぞ」

そう言って置かれたトレー。

私は少し目を丸くする。

陽貴くんも驚いたみたいだった。

「……いいんですか?」

「もちろん」

看護師さんがにこっと笑う。

「佐野さん、今日は特別です」

その言い方に、私は思わず吹き出してしまった。

陽貴くんも少し照れたみたいに笑う。

病院食と、簡単なおかず。

本当に普通のご飯。

でも。

その“普通”が、今はすごく幸せだった。

陽貴くんがベッド横へ椅子を寄せる。

「一緒に食べよ」

「……うん」

私はテーブルをセットしてもらいながら、小さく息を吐いた。

こんな風に誰かとご飯を食べるの、いつぶりだろう。

事故に遭ってからは。

食欲もなくて。

ただ“食べなきゃ”って感じだった。

でも今は違う。

陽貴くんが隣にいるだけで、不思議なくらい美味しそうに見えた。

「いただきます」

「いただきます」

声が重なる。

それだけで、なんだか嬉しくなる。

陽貴くんは私がちゃんと食べられてるか気になるみたいで、ずっとちらちら見てくる。

「……なに」

「いや」

「紗凪、ちゃんと食べれてるなって」

「子供じゃないんだけど」

「でも最近ずっと点滴とかゼリーとかやったじゃん」

確かにそうだった。

まともな食事も、まだ少し久しぶりだ。

私は小さく笑いながらスープを飲む。

温かい。

それだけで、じわっと胸が熱くなった。

陽貴くんがふと呟く。

「隣に紗凪がいるだけでこんなにもご飯が美味しく感じる」

その声が、少し優しかった。

私はゆっくり陽貴くんを見る。

陽貴くんも、どこか安心した顔をしていた。

きっと。

ずっと“失うかもしれなかった日常”を見てたから。

だから今。

こんな当たり前の時間が、奇跡みたいに感じるんだと思う。

私は小さく笑った。

「……久しぶりだね」

「うん」

「すごく久しぶり」

陽貴くんが、静かに頷く。

そして。

「……嬉しい」

ぽつりと零した。

その声が、あまりにも本音で。

私は胸がぎゅっとなる。

「……わたしも」

掠れた声で返す。

すると陽貴くんが、少しだけ目を細める。

あの日。

ICUで眠る私を見て。

陽貴くんは、本気で覚悟したんだと思う。

私はゆっくり箸を置いた。

そして。

テーブル越しに、そっと陽貴くんの手へ触れる。

「愛してるよ、陽貴くん。
本当に、世界で一番。」

そう言うと。

陽貴くんの目が、少しだけ潤んだ。

「……生きててくれてありがとう」

でも泣かないように笑って。

「ほんとに」

そう言いながら、ぎゅっと私の手を握り返した。