森崎隼斗side
日勤が終わった。
PHSを外して、ようやく一息つく。
……今日はちょっと長かった。
カルテ入力も終わらせて、時計を見る。
気づけば、いつもより遅い時間になっていた。
それでも。
自然と足は、HCUへ向かっていた。
もう完全に習慣になってる。
「……あかんなぁ」
自分でも苦笑する。
院内コンビニへ寄る。
冷蔵棚の前で、なんとなくプリンを手に取った。
その瞬間。
——「……またプリン」
少し呆れたみたいに笑ってた紗凪ちゃんの顔を思い出す。
思わず、一人で笑ってしまった。
「さすがに飽きるか」
小さく呟いて。
俺はプリンを棚へ戻す。
代わりに、桃のゼリーを手に取った。
喉越しいいし。
リハビリ後でも食べやすい。
……これなら喜ぶかも。
そんなこと考えてる自分に、また笑えてくる。
ほんま、何してんねやろ。
“紗凪ちゃんが笑うかもしれん”
それだけで、なんか嬉しかった。
コンビニ袋を片手に、HCUの廊下を歩く。
病室までは、もう迷わん。
何回通ったやろ。
扉の前へ着く。
そして。
手をかけた、その時だった。
——あ。
動きが止まる。
少し開いた扉の隙間。
そこから、中が見えた。
ベッドの上の紗凪ちゃん。
その隣に座る男。
帽子を取った姿。
テレビでも何回も見た顔。
……佐野陽貴。
すぐ分かった。
紗凪ちゃんが、笑ってる。
柔らかくて。
安心しきった顔で。
あんな笑顔。俺、一回も見たことなかった。
リハビリで歩けた時も。
ヘリポート連れてった時も。
笑ってくれてた。
でも、違う。
今の顔はもっと深いところから安心してる顔やった。
陽貴が何か言う。
紗凪ちゃんがまた笑う。
その距離感が自然すぎて。
積み重ねてきた時間が見えるみたいやった。
胸が、ぎゅっと痛くなる。
……あぁ。
敵わへんな。
自然とそう思った。
俺には引き出されへん笑顔。
俺がどれだけそばおっても。
どれだけ支えたくても。
結局、紗凪ちゃんが一番会いたかったんは、この人なんや。
扉を掴く手に、力が入る。
ぐしゃっとコンビニ袋が鳴った。
その音で気づかれそうになって、慌てて力を抜く。
情けない。
ほんま。
何期待してたんやろ。
数秒、その場で立ち尽くす。
病室の中から、紗凪ちゃんの笑い声がまた聞こえた。
その声だけで、十分やった。
……元気そうや。
それだけでよかったはずやのに。
なんでこんな苦しいんやろ。
俺は小さく息を吐いた。
それから扉へ手をかけるのをやめた。
静かに、一歩下がる。
「……ゼリー、また今度にするか」
誰にも聞こえん声で呟く。
そして俺は、そのまま病室を後にした。
日勤が終わった。
PHSを外して、ようやく一息つく。
……今日はちょっと長かった。
カルテ入力も終わらせて、時計を見る。
気づけば、いつもより遅い時間になっていた。
それでも。
自然と足は、HCUへ向かっていた。
もう完全に習慣になってる。
「……あかんなぁ」
自分でも苦笑する。
院内コンビニへ寄る。
冷蔵棚の前で、なんとなくプリンを手に取った。
その瞬間。
——「……またプリン」
少し呆れたみたいに笑ってた紗凪ちゃんの顔を思い出す。
思わず、一人で笑ってしまった。
「さすがに飽きるか」
小さく呟いて。
俺はプリンを棚へ戻す。
代わりに、桃のゼリーを手に取った。
喉越しいいし。
リハビリ後でも食べやすい。
……これなら喜ぶかも。
そんなこと考えてる自分に、また笑えてくる。
ほんま、何してんねやろ。
“紗凪ちゃんが笑うかもしれん”
それだけで、なんか嬉しかった。
コンビニ袋を片手に、HCUの廊下を歩く。
病室までは、もう迷わん。
何回通ったやろ。
扉の前へ着く。
そして。
手をかけた、その時だった。
——あ。
動きが止まる。
少し開いた扉の隙間。
そこから、中が見えた。
ベッドの上の紗凪ちゃん。
その隣に座る男。
帽子を取った姿。
テレビでも何回も見た顔。
……佐野陽貴。
すぐ分かった。
紗凪ちゃんが、笑ってる。
柔らかくて。
安心しきった顔で。
あんな笑顔。俺、一回も見たことなかった。
リハビリで歩けた時も。
ヘリポート連れてった時も。
笑ってくれてた。
でも、違う。
今の顔はもっと深いところから安心してる顔やった。
陽貴が何か言う。
紗凪ちゃんがまた笑う。
その距離感が自然すぎて。
積み重ねてきた時間が見えるみたいやった。
胸が、ぎゅっと痛くなる。
……あぁ。
敵わへんな。
自然とそう思った。
俺には引き出されへん笑顔。
俺がどれだけそばおっても。
どれだけ支えたくても。
結局、紗凪ちゃんが一番会いたかったんは、この人なんや。
扉を掴く手に、力が入る。
ぐしゃっとコンビニ袋が鳴った。
その音で気づかれそうになって、慌てて力を抜く。
情けない。
ほんま。
何期待してたんやろ。
数秒、その場で立ち尽くす。
病室の中から、紗凪ちゃんの笑い声がまた聞こえた。
その声だけで、十分やった。
……元気そうや。
それだけでよかったはずやのに。
なんでこんな苦しいんやろ。
俺は小さく息を吐いた。
それから扉へ手をかけるのをやめた。
静かに、一歩下がる。
「……ゼリー、また今度にするか」
誰にも聞こえん声で呟く。
そして俺は、そのまま病室を後にした。

