トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

いつもならこの時間は梓がいてくれた。

「今日のご飯まずそう」

とか。

「えーあの人かっこよくない?」

とか。

そんな、本当にどうでもいい話をして。

笑ってるうちに時間が過ぎていった。

でも今日は違う。

静かな病室。

聞こえるのはモニター音と、廊下を歩く足音だけ。

ひとりになると、駄目だった。

どうしても色々考えてしまう。

ヘリのこと。

仕事のこと。

橘さんのこと。

育成支援チームのこと。

陽貴くんのこと。

考えれば考えるほど。

気持ちが、どんどん暗い方へ沈んでいく。

——もし戻れなかったら。

——もしもう飛べなかったら。

——陽貴くんとも、このまますれ違ってしまったら。

胸が苦しくなる。

息が詰まりそうだった。

夕方。

私は小さく息を吐いて、ベッドから降りる。

点滴台を掴む。

まだ長く歩くと少しふらつく。

でも。今はじっとしてる方が辛かった。

ゆっくり病室を出る。

HCUの廊下。

消毒液の匂い。

遠くで鳴るナースコール。

慣れたはずの景色なのに。

今日はやけに、自分だけ取り残されてるみたいに感じた。

エレベーターへ乗る。

向かった先は、中庭だった。

夕方の風が、頬を撫でる。

空は少し赤く染まり始めていて。

遠くでヘリの音が聞こえた気がした。

私は点滴台を握ったまま、空を見上げる。

……乗りたい。

また、ヘリに。

飛びたい。

現場へ行きたい。

ICUへ帰りたい。

みんなと働きたい。

陽貴くんに会いたい。

触れたい。

抱きしめてほしい。

「……っ」

気づけば。

ぽろ、と涙が落ちていた。

一度溢れたら止まらなかった。

頬を次々伝っていく。

私は慌てて拭う。

でも全然止まらない。

「……やだ……」

掠れた声が漏れる。

こんな風に弱くなる自分も嫌だった。

ちゃんと回復してるのに。

生きてるだけで奇跡なのに。

なのに私は、もっともっとって欲張ってる。

でも。

苦しかった。

怖かった。

ひとりでいると、不安ばっかり大きくなっていく。

その時。

後ろから、小さく足音が聞こえた。