トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

紗凪side

時間が経つのは、本当に早かった。

気づけば。

事故から、もうすぐ1ヶ月。

私はICUを出て、HCUへ移ることが出来ていた。

最初は、あんなにたくさん繋がっていたルートも。

今では末梢の点滴が一本だけ。

胸のドレーンも。

中心静脈ラインも。

酸素も。

全部なくなった。

身体にはまだ傷の痛みが残ってる。

長く歩けば息も上がる。

でも。

“生きてる”って感覚が、ちゃんと戻ってきていた。

「今日のリハビリ、かなり歩けてましたね」

担当の理学療法士さんがカルテを見ながら笑う。

私はベッドへ腰掛けたまま、小さく息を吐いた。

「……つ、かれました」

「そりゃ1ヶ月寝てたようなもんですからね」

そう言われて少し苦笑する。

確かに。

事故直後を思えば、今こうして歩けてるだけでも奇跡みたいなものだ。

先生からも、

「状態はかなり安定してます」

「もう大きな山は越えましたよ」

そう言われていた。

その言葉に、どれだけ安心したか分からない。

先生の言葉を聞いて、数日前に梓も東京へ戻っていった。

本当は最後まで残ろうとしていたけど。

「さすがに私も仕事戻らないと怒られるから!」

そう言って笑っていた。

でも最後。

病室を出る時だけ、少し泣きそうな顔してた。

『またすぐ来るから』

『次は普通に遊びに来る』

そう言って、ぎゅっと抱きしめてくれた。

梓が帰ったあと。

病室が少し静かになった気がした。

でも不思議と、寂しさだけじゃなかった。

みんなのおかげで、ここまで来れたんだって。

ちゃんと思えたから。

コンコン。

病室の扉がノックされる。

「はい」

返事をすると。

「失礼しまーす」

聞き慣れた声。

入ってきたのは、森崎さんだった。

今日もフライトスーツ姿。

その瞬間。

なぜか少しだけ安心してしまう。

「リハ終わり?」

「……はい」

「顔へろへろやん」

「PTさん鬼で…」

コソッと伝えると

すると森崎さんが吹き出す。

「平野さんめちゃくちゃ腕いいけど鬼PTで有名やからな」

そう言いながら、コンビニ袋を持ち上げた。

「頑張った紗凪ちゃんにご褒美持ってきた」

「……?」

中から出てきたのは。

私が好きなカフェラテと、小さいプリン。

思わず目を丸くする。

「……なんで」

「梓ちゃん情報」

いつの間にか梓と森崎さんも仲良くなってたみたい。

私の気がかりはひとつ。

陽貴くん。

もう何週間も会えていない。

最近も陽貴くんとは毎日連絡を取っていた。

でも、お互い忙しくて。

タイミングが合わず、ちゃんとテレビ電話出来ない日も多い。

会いたい。

声を聞きたい。

触れたい。

そう思うたびに。

画面越しじゃ埋まらない距離を感じてしまう。

森崎さんはそんな私を見て、ふっと笑った。

「また寂しそうな顔した」

「あはは…」

すると森崎さんが、優しい声で言った。

「もうすぐ会えるよ」

私はゆっくり視線を上げた。

「……なんで分かるんですか」

「生きてたら絶対会えるから」

その言葉に、思わず笑ってしまう。

窓の外。

夕方の光が差し込む。

事故に遭った時。

もう二度と普通の日常へ戻れないかもしれないって思った。

でも今。

こうして笑えてる。

大切な人たちがいて。

待ってくれてる人がいて。

帰りたい場所がある。

それだけで、十分幸せなんだと思った。