陽貴side
あれから。
俺は一度も大阪へ行けていない。
朝から深夜まで続く撮影。
取材。
生放送。
リハーサル。
移動。
スケジュールは、容赦なく埋め尽くされていた。
「……陽貴、次入ります」
マネージャーの声。
「あぁ」
返事をしながら立ち上がる。
でも頭の中は、ずっと紗凪のことばかり。
ちゃんと眠れてるかな。
痛みは?
呼吸は?
ちゃんと笑えてるんかな。
考え始めたら止まらない。
正直心配と不安で、どうにかなりそうだった。
そんな中毎日必ず一本だけ来る電話があった。
梓ちゃんから。
『今日、リハビリで歩いたよ』
『今日ドレーン抜けた』
『ご飯ちょっと食べれた』
『今日は熱もない』
その報告を聞くたび。
胸の奥が少しずつ軽くなる。
あぁ、生きてる。
ちゃんと回復してる。
それだけで、本当に安心した。
今日は久しぶりにテレビ電話をした。
画面越しに見えた紗凪は、前よりずっと顔色が良くなっていた。
まだ痩せてるし。
声も完全には戻ってない。
でもちゃんと笑ってた。
『……おつかれさま』
掠れた声。
それだけで泣きそうになる。
「そっちこそ」
俺がそう返すと。
紗凪が少し笑う。
その時だった。
『あ、紗凪ちゃんそれ危ないですって』
画面の向こうから男の声。
森崎さん。
紗凪の病院の主任。
画面の外で何かしてたらしい。
『大丈夫ですもん』
『いや全然大丈夫ちゃいます』
『子供扱いしすぎなんですよ』
『病み上がりはみんな子供って前も言うたでしょー』
そのやり取りに紗凪が、ふふっと笑う。
すごく自然な笑顔だった。
俺はその顔を見て。
安心した。
……はずなのに。
胸の奥が、少しだけ苦しくなる。
ありがたい。
本当に。
俺が行けない間。
あの人たちが紗凪を支えてくれてる。
梓ちゃんも。
森崎さんも。
感謝しかない。
でも。
その輪の中に、自分はいない。
紗凪がしんどい時。
隣にいるのは俺じゃない。
リハビリ頑張った時に褒めるのも。
眠れない夜にそばにいるのも。
全部、違う誰かだ。
俺は。
画面越しでしか会えない。
その現実が、じわじわ胸を締め付けた。
『陽貴くん?』
紗凪の声で我に返る。
「……ん?」
『疲れてる?』
心配そうな顔。
俺は慌てて笑った。
「全然」
嘘だ。疲れてる。
でも身体じゃなくて、多分心が。
『ちゃんと寝てる?』
「寝てる寝てる」
『うそ』
即答されて、思わず苦笑する。
やっぱり紗凪にはバレる。
その時。
『ほら紗凪ちゃん水飲んで』
また森崎さんの声。
画面の端からストロー付きのペットボトルが差し出される。
紗凪が「ありがとございます」って笑う。
その光景が妙に胸に刺さった。
俺も、本当はそういうことしたい。
そばで支えたい。
手、握りたい。
頭撫でたい。
大丈夫って言いたい。
でも今の俺には、それが出来ない。
電話越しでしか、紗凪に触れられない。
通話が終わったあと。
楽屋のソファへ座り込む。
スマホ画面には、さっきまで笑ってた紗凪。
俺はゆっくり目を閉じた。
「……会いたい」
ぽつりと漏れた声。
それは、自分でも驚くくらい弱かった。
あれから。
俺は一度も大阪へ行けていない。
朝から深夜まで続く撮影。
取材。
生放送。
リハーサル。
移動。
スケジュールは、容赦なく埋め尽くされていた。
「……陽貴、次入ります」
マネージャーの声。
「あぁ」
返事をしながら立ち上がる。
でも頭の中は、ずっと紗凪のことばかり。
ちゃんと眠れてるかな。
痛みは?
呼吸は?
ちゃんと笑えてるんかな。
考え始めたら止まらない。
正直心配と不安で、どうにかなりそうだった。
そんな中毎日必ず一本だけ来る電話があった。
梓ちゃんから。
『今日、リハビリで歩いたよ』
『今日ドレーン抜けた』
『ご飯ちょっと食べれた』
『今日は熱もない』
その報告を聞くたび。
胸の奥が少しずつ軽くなる。
あぁ、生きてる。
ちゃんと回復してる。
それだけで、本当に安心した。
今日は久しぶりにテレビ電話をした。
画面越しに見えた紗凪は、前よりずっと顔色が良くなっていた。
まだ痩せてるし。
声も完全には戻ってない。
でもちゃんと笑ってた。
『……おつかれさま』
掠れた声。
それだけで泣きそうになる。
「そっちこそ」
俺がそう返すと。
紗凪が少し笑う。
その時だった。
『あ、紗凪ちゃんそれ危ないですって』
画面の向こうから男の声。
森崎さん。
紗凪の病院の主任。
画面の外で何かしてたらしい。
『大丈夫ですもん』
『いや全然大丈夫ちゃいます』
『子供扱いしすぎなんですよ』
『病み上がりはみんな子供って前も言うたでしょー』
そのやり取りに紗凪が、ふふっと笑う。
すごく自然な笑顔だった。
俺はその顔を見て。
安心した。
……はずなのに。
胸の奥が、少しだけ苦しくなる。
ありがたい。
本当に。
俺が行けない間。
あの人たちが紗凪を支えてくれてる。
梓ちゃんも。
森崎さんも。
感謝しかない。
でも。
その輪の中に、自分はいない。
紗凪がしんどい時。
隣にいるのは俺じゃない。
リハビリ頑張った時に褒めるのも。
眠れない夜にそばにいるのも。
全部、違う誰かだ。
俺は。
画面越しでしか会えない。
その現実が、じわじわ胸を締め付けた。
『陽貴くん?』
紗凪の声で我に返る。
「……ん?」
『疲れてる?』
心配そうな顔。
俺は慌てて笑った。
「全然」
嘘だ。疲れてる。
でも身体じゃなくて、多分心が。
『ちゃんと寝てる?』
「寝てる寝てる」
『うそ』
即答されて、思わず苦笑する。
やっぱり紗凪にはバレる。
その時。
『ほら紗凪ちゃん水飲んで』
また森崎さんの声。
画面の端からストロー付きのペットボトルが差し出される。
紗凪が「ありがとございます」って笑う。
その光景が妙に胸に刺さった。
俺も、本当はそういうことしたい。
そばで支えたい。
手、握りたい。
頭撫でたい。
大丈夫って言いたい。
でも今の俺には、それが出来ない。
電話越しでしか、紗凪に触れられない。
通話が終わったあと。
楽屋のソファへ座り込む。
スマホ画面には、さっきまで笑ってた紗凪。
俺はゆっくり目を閉じた。
「……会いたい」
ぽつりと漏れた声。
それは、自分でも驚くくらい弱かった。

