トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

紗凪side

次に目を覚ました時。

窓の外は明るかった。

白い朝の光が、薄いカーテン越しに病室へ差し込んでいる。

……朝?

ぼんやりした頭で、ゆっくり瞬きをする。

身体は相変わらず重い。

でも昨日より、ほんの少しだけ楽だった。

私は小さく息を吐く。

その瞬間。

喉の渇きに気づく。

「……み、ず……」

掠れた声。

私はゆっくり周りを見渡した。

すると。

ベッド横のテーブルに、一本のペットボトルが置かれていた。

そこにはマジックで大きく、

『紗凪がんばれ』

って書かれている。

……梓の字。

思わずふっと笑ってしまう。

その下には小さなメモ。

『少し買い出しに出るね』

私はその文字を見つめる。

……まだいてくれてるんだ。

東京だって忙しいはずなのに。

仕事もあるだろうし。

きっと向こうも大変なのに。

申し訳ないな……。

でもすごく安心した。

私はゆっくりペットボトルへ手を伸ばそうとして——

「っ……」

腕が思った以上に重い。

全然うまく動かない。

情けなくて少し苦笑した、その時。

コンコン。

病室の扉を叩く音。

私はそちらへ視線を向ける。

「……は、い……」

小さく返事をすると。

静かに扉が開いた。

入ってきたのは、西国先生だった。

白衣姿。

でもいつもの先生と少し違った。

どこか疲れていて。

どこか、痛々しい顔。

私は少し目を丸くする。

先生はベッド横まで来ると、しばらく何も言わなかった。

静かな沈黙。

モニター音だけが響く。

やがて。

先生がぽつりと口を開いた。

「……一ノ瀬」

低い声。

「守ってやれなくて悪かった」

その言葉に、私は目を見開く。

そんな顔しないで。

そう思った。

だって先生は、ずっと私を助けようとしてくれてたのに。

私はゆっくり息を吸う。

喉が痛い。

でも。

ちゃんと伝えたかった。

「……せん、せ……の……」

掠れて上手く出ない声。

先生が少し身体を近づける。

私は必死に言葉を繋いだ。

「……おう、きゅう……しょち……の、おかげ……で……」

「……こう、して……いきて……るんです……」

声を出すたび、喉が焼けるみたいに痛い。

でも。

それでも。

感謝してることだけは、ちゃんと伝えたかった。

先生はしばらく黙ったまま私を見ていた。

それから。

少しだけ、悲しそうに笑う。

「……お前ってやつは」

小さな声。

そして。

「生きててよかった」

その言葉に、私は小さく微笑んだ。

まだ上手く笑えない。

でも先生も少しだけ、安心したみたいな顔をした。

そしてカルテを軽く確認しながら続ける。

「今日からリハビリ始めていいぞ」

「……え」

思わず目を瞬く。

先生が少し口元を緩めた。

「あとでドレーンも抜くから」

「頑張れ」

その瞬間。

私は思わず顔をしかめた。

……ドレーン抜去。

絶対痛いやつ。

先生はそんな私の顔を見て、珍しく少し笑った。

「その顔できるなら、もう大丈夫だな」

「……む、り……」

掠れ声で言うと。

先生がふっと吹き出した。

病室に、少しだけ穏やかな空気が流れた。