トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

紗凪side

目が覚める。

ぼんやりした視界。

暗い天井。

静かなモニター音。

……夜?

私はゆっくり瞬きをした。

身体はまだ重い。

でも、少しだけ。

本当に少しだけ、昨日より楽な気がした。

私は視線を横へ向ける。

窓の外は真っ暗だった。

ナースステーションの明かりだけが、ガラス越しにぼんやり見えている。

時計を見る。

——2:07。

深夜だった。

「……」

今、何日経ったんだろう。

事故の日から。

どれくらい眠ってた?

頭がまだぼんやりしていて、時間の感覚が上手く掴めない。

私は小さく息を吐いた。

その時。

右手に、温もりを感じた。

……ん?

ゆっくり視線を落とす。

すると。

ベッド横へ突っ伏すみたいにして、森崎さんが眠っていた。

私の手を握ったまま。

少し乱れた髪。

スクラブ姿のまま。

多分、ちゃんと寝てない。

疲れてるはずなのに。

それでもここにいてくれたんだ。

私はぼんやり、その横顔を見る。

……優しい人。

きっと。

私が目を覚ました時、不安にならないように。

手、握っててくれたんだ。

胸の奥がじんわり温かくなる。

私は起こさないよう、そっと反対の手でスマホを探した。

ベッド横。

梓が置いてくれてたらしい。

画面をつける。

その瞬間。

通知が一気に並んだ。

全部。

陽貴くんだった。

『紗凪、大丈夫?』

『紗凪、無理してない?』

『痛いとこない?』

『ちゃんと寝れてる?』

『紗凪に会いたい』

『紗凪』

何回も。

何回も。

私の名前ばっかり。

私は思わず、ふっと笑ってしまった。

……ほんとに。

どれだけ心配してるの。

でもそのメッセージ見てたら胸の奥が、きゅうってなった。

会いたい。

触れたい。

甘えたい。

寂しい。

そんな気持ちが、じわじわ溢れてくる。

事故に遭ってから。

きっとずっと気を張ってた。

でも。

夜中って、だめだ。

弱くなる。

私はスマホをぎゅっと握る。

でも陽貴くんは、自分で決めて東京へ戻った。

あんなに苦しそうだったのに。

ちゃんと仕事へ戻った。

だから私のせいで、また迷惑かけたくない。

心配ばっかりさせたくない。

私はゆっくり画面を開く。

震える指で、短く文字を打った。

『陽貴くん』

『たくさん寝て、体調良くなってきたよ』

少し迷って。

それから。

『ちゃんとご飯食べてね』

送信。

既読はつかない。

多分、まだ仕事中か。

それとも寝てるのかな。

私は小さく息を吐く。

その時。

「……紗凪ちゃん」

掠れた声。

見ると、森崎さんが薄く目を開けていた。

寝ぼけたまま私を見る。

そして。

私が起きてることに気づいた瞬間、ぱっと表情が変わった。

「……っ、しんどい!?」

慌てて身体を起こす。

私は小さく笑って首を横に振る。

「……だい、じょぶ……」

まだ声は掠れていた。

森崎さんは、ほっとしたみたいに深く息を吐く。

「びっくりした……」

そう言いながら。

まだ私の手、離してなかった。

私はその温もりを感じながら、ゆっくり目を閉じる。

誰かがそばにいてくれる。

それだけで、不思議なくらい安心できた。

私はまた、静かな眠りへ落ちていった。