トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

私は少しでも“大丈夫”って伝えたくて、もう一度口を開こうとした。

「……たち、ば——」

でも。

次の瞬間。

「っ……げほっ、ごほっ……!!」

強い咳が込み上げる。

肺が震えるたびに、胸の奥がズキッと痛んだ。

喉も焼けるみたいに熱い。

「っ、は……ぁ……」

うまく息が吸えない。

その瞬間。

「一ノ瀬さん、無理したらあかん」

森崎さんがすぐベッド横へ来る。

背中へそっと手を当てて、ゆっくりさすってくれる。

「まだ抜管したばっかやから」

「喉も肺もボロボロなんです」

その声が思ったより優しくて。

私は少しだけ力を抜いた。

森崎さんは酸素マスクの位置を軽く整えながら、小さく息を吐く。

「……ほんま、戻ってきてくれてよかった」

掠れた声だった。

いつもの軽い調子じゃない。

本気で安心したんだって分かる声。

私はぼんやりその横顔を見る。

その時。

「じゃあ私、少し買い出し行ってきます」

梓がバッグを持ちながら言った。

「紗凪の飲めそうなものとか、色々買ってくるので」

そして森崎さんと橘さんを見る。

「少し紗凪お願いします」

「任せてください」

森崎さんがすぐ頷く。

橘さんも小さく「はい」と返事をした。

梓は私の顔を覗き込む。

「すぐ戻るからね」

私は小さく頷いた。

扉が閉まる。

部屋の中に少し静かな空気が戻った。

でも。

橘さんはまだ俯いたままだった。

私はその姿を見ながら、ゆっくり呼吸を整える。

身体は重い。

少し話すだけで、すぐ疲れる。

でも。

このままにはしたくなかった。

私はゆっくり手を動かす。

点滴の入った重い腕。

それでも何とか、橘さんの白衣の袖を軽く引いた。

橘さんがハッと顔を上げる。

私は酸素マスク越しに、小さく笑った。

「……いき、てる……から」

掠れた声。

でも。

それだけはちゃんと伝えたかった。

すると。

橘さんの目から、ぽろっと涙が落ちた。

「……っ」

慌てて顔を逸らす。

でも全然隠しきれてない。

森崎さんがその横で、小さく苦笑した。

「ほ…んと…よかった…生きてくれて、ありがとう…ございます」

泣きながら返す声に、私は少しだけ笑ってしまった。

その瞬間また軽く咳き込む。

森崎さんがすぐ「ほら笑いすぎ」と背中をさする。

その手が、妙に温かかった。