トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

抜管は、思っていたよりあっさり終わった。

「はい、ゆっくり息吸ってください」

先生の声。

私は小さく頷く。

次の瞬間。

喉の奥を通っていた違和感が、するりと抜けていった。

「っ……げほ……っ」

強い咳が出る。

涙が滲む。

喉が焼けるみたいに痛い。

でも。

それ以上に、“自分で呼吸できる”感覚に少し安心した。

「大丈夫です」

看護師さんが背中をさすってくれる。

私は何度か浅く呼吸を繰り返した。

酸素マスク越しの空気。

少し苦しいけど。

ちゃんと、自分の肺が動いてる。

「SpO₂維持できてますね」

「呼吸音も大丈夫そう」

先生たちの声が聞こえる。

梓が横で、ほっとしたみたいに笑った。

「よかったぁ……」

私は少しかすれた声で、

「……み、ず……」

と言う。

すると梓がすぐ笑った。

「声、ガッサガサ」

そう言いながら、口を湿らせる用のスポンジを持ってきてくれる。

冷たい水分が口に触れた瞬間。

泣きそうなくらい美味しかった。

「……お…し」

掠れ声で呟くと、梓が吹き出す。

「そんな感想ある?」

私も少しだけ笑った。

その時だった。

バンッ——!!

ICU個室の扉が、ものすごい勢いで開く。

「一ノ瀬さん!!」

「紗凪ちゃん!!」

勢いよく入ってきたのは。

森崎さんと橘さんだった。

二人とも息が上がっている。

多分、走ってきたんだと思う。

私は思わず目を瞬く。

森崎さんは私の顔を見るなり、

「うわぁぁぁぁ……」

と、その場で崩れ落ちるみたいに膝へ手をついた。

「よかったぁぁぁ……ほんまに……」

今にも泣きそうな顔。

いつもの余裕ゼロ。

私は少し驚きながら、小さく笑う。

「……もり、さき……さん……」

声が掠れすぎて、自分でも変な声だった。

でも森崎さんは、その声を聞いた瞬間また顔を覆った。

「しゃべったぁ……」

「やばい、俺ほんま泣きそう」

その横で。

橘さんは、ずっと何も言えなかった。

ただ。

真っ赤な目で、私を見ている。

顔色もまだ悪い。

私はその顔を見て、ぼんやり思う。

……あぁ。

この子、ずっと自分責めてたんだろうな。

すると。

橘さんが突然、深く頭を下げた。

「……すみませんでした」

震える声。

「私のせいで……」

その瞬間。

私は小さく眉を寄せる。

まだ身体は全然動かない。

でも。

私はゆっくり首を横に振った。

「……ちが、う……」

掠れた声。

橘さんが顔を上げる。

私は息を整えながら、なんとか言葉を繋ぐ。

「……あれ、は……」

「……わたし、の……はんだん……」

現場で起きたことに、“絶対”なんてない。

危険予測してても、事故は起こる。

だから橘さんだけが悪いわけじゃない。

でも橘さんは、また泣きそうな顔をした。

森崎さんが、そんな橘さんの肩を軽く叩く。

「ほら」

「本人に気ぃ使わせたらあかん」

そう言いながら。

森崎さん自身の目も、少し赤かった。