トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

梓side

陽貴さんが東京へ戻った次の日。

朝のICUは、いつも通り慌ただしかった。

モニター音。

ナースコール。

申し送りの声。

重症患者が集まるこの場所では、“昨日の奇跡”に浸ってる暇なんてない。

それでも私は自然と紗凪の個室へ足を向けていた。

ガラス越しに見る紗凪は、昨日より少しだけ顔色が良かった。

もちろん、まだ痛々しい。

胸にはドレーン。

点滴ラインも何本も入ってる。

昇圧剤も継続中。

輸血もまだ必要。

決して“安心”できる状態じゃない。

でも呼吸器の波形はかなり安定していた。

SpO₂も綺麗に保てている。

その時担当医の先生がカルテを見ながら言った。

「一ノ瀬さん、今日呼吸器離脱できそうです」

私は思わず顔を上げる。

「……本当ですか」

「はい」

先生がモニターへ視線を向けながら頷く。

「まだ循環は不安定です」

「昇圧剤も輸血も必要ですし、余談は全然許さない」

「でも呼吸状態はかなり落ち着いてきてる」

その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。

人工呼吸器離脱。

それはつまり。

紗凪が、自分の力で呼吸出来るってこと。

事故直後を思えば、本当に信じられなかった。

先生は少しだけ笑う。

「一ノ瀬さんの生命力はすごい」

「普通なら、もう少し長引いてもおかしくなかった」

私は小さく頷く。

……ほんとだよ。

あんな状態から、よくここまで戻ってきた。

その時。

ベッドの上の紗凪が、少しだけ目を開けた。

ぼんやりした視線。

でも昨日より、ちゃんと焦点が合っている。


私はすぐベッド横へ行く。

「おはよ」

そう言うと。

紗凪が、少しだけ眉を寄せた。

ジェスチャーで喉が痛いと言う。

私は思わず笑ってしまう。

「そりゃ挿管されてるから」

「でもきょう抜管してくれるって」

すると紗凪が、ゆっくり瞬きをする。


まだ眠そう。

でも。

ちゃんと“いつもの紗凪”が戻ってきていた。

その瞬間。

本当に安心した。

あぁ。

もう大丈夫かもしれない。

そう、初めて思えた。