トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

夕方になる頃には紗凪の状態は、さらに少しずつ落ち着きを見せ始めていた。

「血圧安定してます」

「尿量もしっかり出てますね」

「SpO₂もいい感じです」

ICU看護師たちの声にも、ようやく余裕が戻ってきている。

もちろんまだ重症患者であることに変わりはない。

でも数時間前までの、“いつ急変してもおかしくない”空気とは明らかに違った。

若いからか。

元々身体が強いのか。

回復力が、本当に早かった。

紗凪は相変わらずほとんど眠っていた。

鎮静もまだ残っている。

身体もダメージだらけだ。

でも時折うっすら目を開けたり。呼びかけに反応したり。

手を動かしたり。

確実に、“戻ってきている”。

私はモニターを見ながら、小さく息を吐いた。

……本当によかった。

その時。

ICUの扉が開く。

振り返ると、陽貴さんだった。

少しだけ髪が乱れている。

多分、ちゃんとベッドで寝たんだと思う。

2、3時間だけだったとしても。

それでも、さっきまでより顔色は少しマシになっていた。

でも部屋へ入った瞬間。

一直線に紗凪のベッドへ向かう。

「……紗凪」

掠れた声。

そのまま、また自然に手を握る。

本当に。

離れてる時間の方が落ち着かないんだろうなと思う。

紗凪は眠ったまま。

でも陽貴さんが来たタイミングで、うっすらと目を開ける。

それを見た瞬間。

陽貴さんの表情が、少しだけ柔らかくなる。

「……分かってる?」

小さく笑う。

「俺来たの」

その声が、あまりにも優しくて。

紗凪は小さくコクコクと頷く。

そしてまた眠りにつく。

その後。

担当医が状態確認へ来た。

瞳孔。

呼吸。

血液データ。

モニター。

一通り確認してから、小さく頷く。

「かなり順調です」

その言葉に、みんなの空気が少し緩む。

そして先生は続けた。

「このままいけば、明日には人工呼吸器離脱できると思います」

その瞬間。

陽貴さんが、はっと顔を上げた。

「……ほんとですか」

「はい」

先生も少し笑う。

「思ったより回復早いです」

「若いのもありますね」

その言葉に。

お母さんが目を潤ませながら口元を押さえた。

お父さんも深く息を吐く。

私も、ようやく肩の力が抜けた気がした。

人工呼吸器離脱。

それはつまり。

紗凪が、自分の力で呼吸出来る状態まで戻ってきてるってこと。

まだ先は長い。

リハビリも必要。

傷も残るかもしれない。

でも。

“生きられる”

ようやく、そう思えた。

陽貴さんは、静かに紗凪の手を握りながら俯く。

そして。

「……頑張ったね」

小さくそう呟いた。

眠る紗凪の睫毛が、微かに震えた気がした。