トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

ICUの空気が少し落ち着いた頃。

私のスマホが震えた。

画面を見る。

——優朔さん。

私は一度病室を出て、廊下へ出る。

電話へ出ると、すぐ声が聞こえた。

『梓ちゃん?』

「はい」

『紗凪ちゃんは……?』

その声は、落ち着いているようで少し震えていた。

私は小さく息を吐く。

「……さっき、少し反応ありました」

『……え?』

「陽貴さんの手、握り返して」

「少しだけ目も開けて」

数秒。

電話の向こうが静かになる。

そして。

『……よかった……』

掠れた声。

本気で安心したみたいだった。

『ほんとによかった……』

その声を聞いて、私まで少し泣きそうになる。

黒騎士のみんなだって、ずっと不安だったはずだ。

優朔さんは少し呼吸を整えてから聞く。

『今、状態は?』

「まだ人工呼吸器ついてます」

「でもバイタルはかなり落ち着いてきました」

『そっか……』

安心と、まだ消えない不安が混ざった声。

でも。

さっきまでよりずっと明るかった。

そして。

少し間が空く。

『……陽貴は?』

静かな声だった。

「……ずっとそばにいます」

「ご飯もやっと少し食べたくらいで」

「ほとんど寝てなくて。今やっと少し休みに行きました」

そう伝えると。

電話の向こうで、優朔さんが小さく息を吐いた。

『……そっか』

その声だけで分かった。

多分、想像通りなんだと思う。

『実は今』

『マネージャーが大阪向かってる』

心臓がドクリと音を立てる。

『社長もかなり心配してて』

『このまま陽貴を東京戻さないと、仕事が完全に止まる』

その言葉に、胸が重くなる。

分かってる。

陽貴さんは、“佐野陽貴”だ。

トップアイドル。

一人動けなくなるだけで、何十人、何百人に影響が出る世界。

でも今の陽貴さんを見たら。

とてもじゃないけど、簡単に“帰ってください”なんて言えない。

優朔さんが、少し言いづらそうに続ける。

『……梓ちゃん』

『もし出来たら』

『陽貴を説得してもらえないかな』

私は黙る。

『こんなこと頼んでごめん』

『ほんとは俺らが言うことじゃない』

『でも……』

そこで優朔さんが少し言葉を止めた。

『このまま陽貴、壊れそうで』

その声が、あまりにも本気だった。

私はぎゅっとスマホを握る。

病室のガラス越し。

眠る紗凪を見る。

私は小さく目を伏せた。

「……分かりました」

そう答えるしか、出来なかった。