トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

それからしばらくして。

紗凪はまた静かに眠ってしまった。

鎮静もまだ入っている。

身体へのダメージも大きい。

長く起きていられる状態じゃない。

でも。

さっきまでとは違った。

モニター波形は安定している。

SpO₂も落ち着いていた。

血圧も維持出来ている。

人工呼吸器の波形も綺麗だった。

担当医が数値を確認しながら、小さく頷く。

「……ひとまず山は越えたかな」

その言葉にICUの空気が、ようやく少し緩んだ。

誰かが長く息を吐く。

看護師たちも、張り詰めていた表情を少しだけ崩した。

ここ数日。

本当に全員ギリギリだった。

急変のたび走って。

数値が落ちるたび空気が凍って。

眠れないまま働いて。

それでも、“一ノ瀬紗凪”を絶対助けたかった。

その中心にいたのが、紗凪自身だったから。

「……よかった」

ぽつりと漏れたのは、誰の声だったのか分からない。

でもその場にいた全員が、同じ気持ちだったと思う。

私はベッド横へ視線を向ける。

陽貴さんは、まだ紗凪の手を握ったままだった。

でもさっきまでみたいな、“今にも壊れそう”な顔じゃない。

もちろん目は真っ赤だし。

疲労も限界だと思う。

それでも。

ようやく少しだけ、呼吸が出来ているように見えた。

お母さんがそっと陽貴さんの肩へ手を置く。

「……よかったわね」

陽貴さんは、小さく頷いた。

「……はい」

掠れた声。

でも。

その声にはちゃんと、生きている実感が戻っていた。

お父さんもベッド横へ来る。

そして眠る紗凪を見ながら、小さく笑った。

「昔から、無茶ばっかりするんだ」

低い声。

「小さい頃から木登りして落ちるし」

「海外でも勝手に知らない場所行くし」

お母さんが苦笑する。

「ほんと手のかかる子だったわよねぇ」

その会話が、あまりにも“普通”で。

私は胸が熱くなる。

つい数時間前まで。

生きるか死ぬかの空気だったのに。

今はこうして、“いつもの話”が出来ている。

それが奇跡みたいだった。

その時。

「……っくしゅ」

小さなくしゃみ。

みんなが振り返る。

陽貴さんだった。

私は思わず眉を寄せる。

「……陽貴さん、風邪ひきますよ」

本気でそう思った。

何日まともに寝てないんだって顔してる。

するとお母さんもすぐ頷く。

「今日はちゃんと休みなさい」

「でも——」

「だめよ。紗凪が起きるまであなたも横になっておいで」

優しいのに、有無を言わせない声。

その言い方が少し紗凪に似ていて。

私は思わず笑いそうになる。

陽貴さんも気づいたのか、少しだけ困った顔をした。

「紗凪に言われたのかと思った」

と。

その瞬間。

みんなが、やっと少し笑った。

張り詰めていた空気が。

ようやく、ほんの少しだけ解けていった。