トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

それから数十分。

ICUの空気は、少しだけ変わっていた。

もちろん、まだ予断は許さない。

人工呼吸器管理。

鎮静調整。

循環管理。

やることは山ほどある。

でも。

“反応が返ってきた”

それだけで、みんなの表情が少し違っていた。

高城先生がカルテを確認しながら静かに言う。

「このまま反応が安定すれば、明日にはもう少し鎮静落とせるかもしれない」

その言葉に。

お母さんがまた涙ぐむ。

「……ありがとうございます」

西国先生も、ふっと息を吐いた。

「よく戻ってきたな」

その声は、本当に安堵していた。

私はベッド横のモニターを見る。

規則的な波形。

少し前まで、不安定だったSpO₂も落ち着いてきている。

紗凪。

本当に、頑張ってる。

その時だった。

みんなが一斉に顔を上げる。

陽貴さんが、息を呑んだ。

「紗凪……?」

紗凪の瞼が、また微かに動く。

苦しそうに眉を寄せながら。

ゆっくり。

本当にゆっくり、目を開けようとする。

でも。

鎮静も入ってる。

身体もボロボロ。

うまく開かない。

それでも。

「……っ……」

何かを探すみたいに、視線が揺れる。

陽貴さんが、すぐ顔を近づけた。

「紗凪」

震える声。

「ここいる」

その瞬間。

紗凪の視線が、ゆっくり陽貴さんを捉える。

ぼんやりした目。

まだ焦点も曖昧。

でも。

確かに、安心したように少しだけ力が抜けた。

陽貴さんが、涙を堪える。

「……っ」

声が出ない。

紗凪は呼吸器のせいで話せない。

でも。

握っていた手に、もう一度小さく力を込めた。

その弱い反応だけで。

陽貴さんの目から、また涙が落ちる。

「……ばか」

「ほんと……ばか……」

その声があまりにも優しくて。

私は思わず目を逸らす。

これ以上見てたら、こっちまで泣きそうだった。

お母さんがそっと口元を押さえる。

お父さんも、静かに目を閉じた。

そして。

高城先生が小さく笑う。

「一ノ瀬さん」

「みんな、待ってましたよ」

その言葉に。

紗凪の目尻から、一筋だけ涙が零れた。