コンコン。
「失礼します」
「どうぞ、一ノ瀬」
堀田師長さんが穏やかに笑う。
その机の上には見慣れない資料が置かれていた。
「座って」
言われるまま椅子へ腰掛ける。
すると師長さんが資料を一枚こちらへ差し出した。
その資料には
“大阪高度救命救急センターフライトナース育成支援チーム”
そう書かれていた。
一瞬、意味が分からなかった。
「大阪で新しく始まるフライトナース育成プロジェクトがあるの」
師長さんが静かに説明を始める。
「全国のフライト経験豊富な看護師を集めて、育成支援チームを作るらしいわ」
ページをめくる。
そこには研修内容や運営概要。
そして。
“指導者候補”
の文字。
「……私?」
「そう」
師長さんが頷いた。
「向こうから直接要請が来てる」
「一ノ瀬のフライト件数、現場対応力、総合的なスキルを見て、ぜひ指導者として来てほしいって」
「……」
言葉が出なかった。
「期間は半年」
師長さんが続ける。
「完全異動じゃないわ。向こうでは病院勤務もしながら、育成支援チームの指導者として動いてもらう形」
半年。
大阪。
頭の中で、その言葉だけがぐるぐる回る。
「もちろん簡単な話じゃない」
師長さんの声は穏やかだった。
「でも、こういう声がかかるのはかなり名誉なことよ」
それは分かる。
分かるけど——。
真っ先に浮かんだのは、陽貴くんの顔。
ただでさえ最近すれ違いが増えている。
そこに大阪。
半年。
簡単に“行きます”なんて言えない。
それに梓。家族。今の職場。
ここで築いてきたもの。
全部を離れることになる。
「……少し、考える時間をいただいてもいいですか」
気づけばそう言っていた。
すると師長さんは優しく頷く。
「もちろん」
「急いで答え出せる話じゃないものね」
その言葉に少しだけ救われる。
「1週間後にまた返事ちょうだい」
「……はい」
師長室を出る。
廊下へ出た瞬間。
急に現実感が押し寄せてきた。
フライトナース育成支援チーム。
それはきっと看護師としては大きなチャンスだった。
でもその代わりに失うものも、きっとある。
私はぎゅっと資料を握りしめた。
胸の奥が、ざわざわして落ち着かなかった。
「失礼します」
「どうぞ、一ノ瀬」
堀田師長さんが穏やかに笑う。
その机の上には見慣れない資料が置かれていた。
「座って」
言われるまま椅子へ腰掛ける。
すると師長さんが資料を一枚こちらへ差し出した。
その資料には
“大阪高度救命救急センターフライトナース育成支援チーム”
そう書かれていた。
一瞬、意味が分からなかった。
「大阪で新しく始まるフライトナース育成プロジェクトがあるの」
師長さんが静かに説明を始める。
「全国のフライト経験豊富な看護師を集めて、育成支援チームを作るらしいわ」
ページをめくる。
そこには研修内容や運営概要。
そして。
“指導者候補”
の文字。
「……私?」
「そう」
師長さんが頷いた。
「向こうから直接要請が来てる」
「一ノ瀬のフライト件数、現場対応力、総合的なスキルを見て、ぜひ指導者として来てほしいって」
「……」
言葉が出なかった。
「期間は半年」
師長さんが続ける。
「完全異動じゃないわ。向こうでは病院勤務もしながら、育成支援チームの指導者として動いてもらう形」
半年。
大阪。
頭の中で、その言葉だけがぐるぐる回る。
「もちろん簡単な話じゃない」
師長さんの声は穏やかだった。
「でも、こういう声がかかるのはかなり名誉なことよ」
それは分かる。
分かるけど——。
真っ先に浮かんだのは、陽貴くんの顔。
ただでさえ最近すれ違いが増えている。
そこに大阪。
半年。
簡単に“行きます”なんて言えない。
それに梓。家族。今の職場。
ここで築いてきたもの。
全部を離れることになる。
「……少し、考える時間をいただいてもいいですか」
気づけばそう言っていた。
すると師長さんは優しく頷く。
「もちろん」
「急いで答え出せる話じゃないものね」
その言葉に少しだけ救われる。
「1週間後にまた返事ちょうだい」
「……はい」
師長室を出る。
廊下へ出た瞬間。
急に現実感が押し寄せてきた。
フライトナース育成支援チーム。
それはきっと看護師としては大きなチャンスだった。
でもその代わりに失うものも、きっとある。
私はぎゅっと資料を握りしめた。
胸の奥が、ざわざわして落ち着かなかった。

