トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

陽貴さんの表情を見た瞬間だった。

紗凪のお母さんが、ふっと眉を下げる。

「……だめよぉ」

優しい声。

でもどこか、本当に心配している母親の声だった。

「そんな顔してたら、紗凪が起きた時びっくりしちゃうわ」

陽貴さんが少し目を瞬く。

「え……」

「全然寝てないでしょう?」

お母さんは、そっと陽貴さんの頬へ触れる。

「顔色、真っ白じゃない」

その瞬間。

張り詰めていた糸が少しだけ緩んだみたいに、陽貴さんの目が揺れた。

「……大丈夫です」

掠れた声。

でも。全然大丈夫じゃないのは誰が見ても分かった。

するとお母さんが、困ったみたいにふふっと笑う。

「紗凪もね、昔からそうなの」

「“大丈夫”って言う時ほど全然大丈夫じゃないのよ」

その言葉に、私は少しだけ目を細めた。

……本当に、その通り。

お母さんはゆっくり続ける。

「少し休みましょう?」

「院内にレストランあるから」

「何か食べて、シャワー浴びてきなさい」

「このままだと陽貴くんが倒れちゃうわ」

“陽貴くん”

自然にそう呼んだお母さんに、陽貴さんが少し驚いた顔をする。

でもその声があまりにも優しくて。

責める感じが一つもなくて。

陽貴さんの肩から、少しだけ力が抜けたのが分かった。

「……でも」

まだ迷ってる。

離れたくないんだ。

数分でも。

その気持ちが痛いくらい分かった。

するとお母さんが、そっと笑う。

「大丈夫」

「今度は私たちが紗凪のそばにいるから」

その言葉に。

陽貴さんは、ようやく小さく頷いた。

紗凪のお母さんは、昔から本当に優しい人だった。

怒ってるところなんて、一度も見たことがない。

いつも穏やかで。

柔らかくて。

でも芯が強い。

紗凪が時々見せる“包み込むみたいな優しさ”は、きっとこの人譲りなんだと思う。

「パパ、少しお願いね」

お母さんがそう言うと。

紗凪のお父さんは静かに頷いて、ベッドサイドの椅子へ座った。

大きな手で、そっと紗凪の髪を撫でる。

その横顔が、見てるだけで苦しかった。

私は小さく息を吐く。

「……行きましょうか」

そう声をかけると。

陽貴さんは、もう一度だけ紗凪の手を握った。

「……すぐ戻るから」

小さな声。

返事はない。

でもその言葉は、確かに紗凪へ向けられていた。