トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-

結局。

紗凪は、二日経っても目を覚まさなかった。

昼も夜も関係なく。

ICUの中では、ずっと緊張状態が続いていた。

血圧変動。

酸素化低下。

鎮静調整。

出血コントロール。

感染管理。

医師も看護師も、文字通り付きっきりだった。

それで状態は決して楽観できるものじゃなかった。

「……正直、かなり厳しいです」

三日目の朝。

ICUカンファレンスで、高城先生が静かに言った。

その場の空気が重くなる。

「これ以上は……本人の生命力に賭けるしかない」

誰も言葉を返せなかった。

分かっていた。

みんな分かっていた。

今、紗凪がどれだけギリギリのところにいるのか。

それでも誰も諦めきれなかった。

だって。

あの紗凪が。

いつも誰より現場を走っていた紗凪が。

このまま終わるなんて、信じたくなかった。

私は深く息を吐いて、ICU個室へ戻る。

部屋の中は相変わらず静かだった。

ピッ——ピッ——

モニター音だけが響く。

そして。

陽貴さんは、今日も同じ場所にいた。

二日前と変わらない。

いや。

むしろ、もっと酷くなっていた。

頬は少しこけて。

髪も乱れたまま。

同じ服を着て。

ほとんど眠ってないのが、一目で分かる。

それでも紗凪の手だけは、絶対離さない。

「……紗凪」

掠れた声。

何度も名前を呼ぶ。

返事なんて返ってこないのに。

それでも呼び続ける。

その姿が、痛いくらい苦しくて。

……見ていられない。

私は思わず目を伏せた。

その時だった。

バタバタバタッ——!!

廊下の向こうから、慌ただしい足音が響く。

私は反射的に振り返った。

そこにいたのは。

一組の男女。

「……っ」

紗凪の、お父さんとお母さんだった。

紗凪の両親は有名な事業家だ。

世界中を飛び回っていて、日本にいる方が少ない。

小さい頃から紗凪がよく言っていた。

“今オーストラリアいるらしい”

“次はドバイだって”

って。確か今回も、オーストラリアにいるって聞いてた。

だから到着にはもっと時間がかかると思っていた。

でも二人とも、明らかにそのまま飛んできたみたいな姿だった。

お母さんは髪も乱れていて。

お父さんもスーツケースをそのまま引いている。

そして。

「梓ちゃん……!」

涙をいっぱい溜めた紗凪のお母さんが、私へ駆け寄ってきた。

そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。

「紗凪は……!?」

震える声。

私は胸が締め付けられた。

いつも上品で、綺麗で、余裕のある紗凪のお母さん。

そんな人が、今は完全に取り乱していた。

私は唇を噛む。

「……まだ、意識戻ってません」

その瞬間。

お母さんの身体が小さく揺れた。

後ろで、お父さんが深く目を閉じる。

でも二人とも泣き崩れなかった。

必死に耐えていた。

親だから。

今、自分たちが崩れたら駄目だって分かってるみたいに。

そしてお母さんの目線が陽貴さんの方へ。

陽貴さんが、ゆっくり立ち上がった。

かなり長時間座っていたせいか、少しふらつく。

でも。そのまま深く頭を下げた。

「……佐野陽貴です」

掠れた声。

「紗凪さんと、お付き合いさせてもらっています」

お母さんもお父さんも、一瞬驚いた顔をした。

でも今は、そんなことを気にする余裕なんてなかった。

お母さんは涙を拭きながら、小さく頭を下げる。

「……紗凪のそばにいてくれて、ありがとうございます」

その言葉に。

陽貴さんの表情が、一瞬だけ崩れた。