トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

梓side

ピッ——ピッ——

規則的なモニター音が、やけに大きく聞こえた。

ICU個室。

薄暗い部屋の中。

人工呼吸器の作動音。

輸液ポンプのアラーム。

消毒液の匂い。

全部が、嫌になるくらい“現実”だった。

ベッドの上には紗凪がいる。

でもそこにいるのは、私の知ってる紗凪じゃなかった。

口元には挿管チューブ。

首元から伸びるルート。

胸にはドレーン。

白いシーツの上に横たわる姿は、あまりにも静かで。

まるで別人みたいだった。

「……っ」

喉が詰まる。

ERで働いてる。

重症患者なんて、何人も見てきた。

人工呼吸器管理も。

多発外傷も。

ECMO導入症例も。

全部知ってる。

だからこそ分かる。

紗凪が、どれだけ危ない状態なのか。

私はぎゅっと唇を噛んだ。

その時隣へ視線が向く。

陽貴さん。

ベッドサイドの椅子へ座ったまま、ずっと紗凪の手を握っていた。

その手を、一度も離さない。

テレビで見る“佐野陽貴”とは全然違った。

キラキラしたトップアイドルじゃない。

ただ。

大事な人を失いそうで、必死に堪えてる男の人だった。

「……紗凪」

掠れた声。

何度も名前を呼ぶ。

でも返事はない。

私はその横顔を見る。

見ていられないくらい苦しそうだった。

目は真っ赤で。

でも泣かない。

いや。

泣けないんだと思う。

もしここで崩れたら、本当に紗凪を失ってしまいそうで。

必死に耐えてる顔だった。

私はさっきのことを思い出す。

『……恋人です』

手術室前。

先生に関係を聞かれた時。

陽貴さんは、迷わなかった。

あの一言に、私は正直驚いた。

だって。この人はトップアイドルだ。

恋人の存在を認めるなんて、本来なら絶対避ける。

下手したらアイドル人生を左右する。

ニュースになるかもしれない。

炎上するかもしれない。

それでも。

そんなこと、全部どうでもいいみたいな顔してた。

ただ。

“紗凪のそばにいたい”

その気持ちだけだった。

私は小さく息を吐く。

紗凪。

あんた、本当に愛されてるよ。

そう思った瞬間。

陽貴くんが、ふっと紗凪の手へ額を当てた。

「……お願いだから」

震える声。

「置いてかないで」

その言葉が、あまりにも切実で。

私は思わず目を逸らした。

これ以上見てたら、多分私まで壊れる。

その時私の携帯電話がなった。

優朔さんから。

「電話に出てきます」

そう言うと、陽貴さんは静かに頷いた。

私は一旦ICUを出て電話をとる。