開いた手術室の扉。
その向こうから、術衣姿の医師たちが出てくる。
帽子の下の髪は汗で張り付き。
マスク越しでも分かるくらい、全員疲弊していた。
胸部外科医がマスクを外す。
その瞬間。
空気が張り詰めた。
「先生……!」
梓さんが一歩前へ出る。
佐野陽貴も、無言のまま顔を上げた。
胸部外科医は数秒黙ったあと、ゆっくり口を開く。
「……手術は、なんとか終わりました」
その瞬間。
その場の空気が一気に揺れた。
誰かが小さく息を吐く。
梓さんはその場で口元を押さえた。
でも医師の表情は、まだ厳しいままだった。
「ただ」
その一言で、また全員が固まる。
「かなり危険な状態です」
静かな声。
でも、その重さは十分すぎるほど伝わった。
「肺損傷、腹腔内出血、多発外傷」
「出血量も相当でした」
「一度、術中かなり循環が厳しくなっています」
森崎は無意識に拳を握り直す。
胸部外科医は続けた。
「今は止血できていますが」
「ここから先は本人の生命力次第です」
その言葉に。
梓さんの目から、また涙が溢れた。
「……先生」
震える声。
「意識は……」
胸部外科医が静かに首を横へ振る。
「まだ鎮静管理下です」
「人工呼吸器管理になります」
「今夜が山場です」
その瞬間、佐野陽貴の肩がほんの少し揺れた。
でも。
それでも倒れない。
崩れない。
ただじっと医師を見ている。
胸部外科医がゆっくり視線を向ける。
「ご家族では……?」
すると梓さんが慌てて答える。
「ご両親は海外で、今向かってます」
「私は親友です」
そのあと少し迷ってから、陽貴を見る。
陽貴は数秒黙ったあと、小さく頭を下げた。
「……恋人です」
その言葉に、一瞬だけ周囲が静まる。
でも今は、誰もそんなことを気にする空気じゃなかった。
胸部外科医は小さく頷く。
「ICUへ移動します」
「面会は状態見ながらになりますが……声掛けはしてあげてください」
「聴こえている可能性はあります」
その言葉に。
陽貴の目が初めて大きく揺れた。
声。
届くかもしれない。
その希望だけを、必死に掴むみたいに。
その時だった。
手術室の奥から、ベッドが動く音が聞こえる。
ガラガラと近づく音。
全員の空気が張り詰める。
そして。
ゆっくりと、紗凪が姿を現した。
白かった。
驚くくらい。
人工呼吸器。
何本ものルート。
胸部ドレーン。
全身を覆う医療機器。
つい数時間前まで、自分の足で現場を走っていた人とは思えなかった。
梓さんが小さく息を呑む。
「……紗凪」
涙声だった。
佐野陽貴は動けなかった。
ただ、ベッド上の紗凪を見つめていた。
その顔があまりにも静かで。
今にも消えてしまいそうで。
怖かった。

