トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

——1ヶ月後。

気づけば、大阪へ来てからもう一ヶ月が経っていた。

毎日が、本当に一瞬だった。

朝からICUにフライト、シミュレーション、カンファレンス、症例検討。

帰宅する頃には日付が変わっていることも珍しくない。

そして陽貴くんも、さらに忙しくなっていた。

全国ツアー、ドラマ撮影、雑誌取材、新曲制作。

連絡も毎日取るのが難しくなってきた。

最後に会えたのは、1ヶ月前のあの日だった。

「……お疲れさまでした」

ヘリを降りながら、私はヘルメットを外す。

夕焼けが、ヘリポートを赤く染めていた。

今日は山間部での転落外傷。

搬送まで含めてかなり長丁場だった。

「お疲れさまです」

隣で橘さんもヘルメットを外す。

額には汗。でも表情は、以前よりずっと柔らかかった。

「さっきの輸液判断、さすがでした」

橘さんがカルテを見ながら言う。

「血圧の落ち方、あのまま待ってたら危なかったと思って」

私は小さく笑う。

「橘さんの観察が早かったからだよ。骨盤疑ったのも早かったし」

すると橘さんが少しだけ眉を下げた。

「……前の私だったら、多分突っ走ってました」

ぽつりと漏れる声。

私は隣を歩きながら聞く。

「今も焦って突っ走ってしまいそうになる時があります」

「でも、一ノ瀬さんが前言ってたじゃないですか」

「“焦ってる時ほど周り見る”って」

私は少しだけ目を丸くした。

そんな何気なく言ったこと、覚えてたんだ。

橘さんは照れ隠しみたいに視線を逸らす。

「……だから最近、まず一回止まるようにしてます」

その言葉に、私は自然と笑みが零れた。

「うん。すごく良くなってる」

すると橘さんが、少しだけ困ったみたいに笑う。

最初の頃じゃ考えられない表情だった。

一ヶ月前。

あんなに距離があったのに。

今では普通に症例の話をして、意見をぶつけ合える。

もちろん厳しい場面もある。

でもちゃんと“チーム”になってきていた。

ヘリポートから救命センターへ戻るエレベーター。

狭い箱の中で、橘さんがふと聞く。

「……一ノ瀬さんって、疲れないんですか」

「え?」

「ずっと落ち着いてるし」

「フライト乗って、ICUやって、指導もして」

「どっかで余裕なくなりません?」

その問いに、私は少しだけ考える。

疲れないわけじゃない。

正直、毎日クタクタだ。

でも。

「……多分、好きだからかな」

「え?」

「この仕事」

自然と口から出た。

「しんどいけど」

「怖い時もあるけど」

「それでも、やっぱり好きなんだと思う」

そう言うと。

橘さんが少し黙る。

そして。

「……かっこいいですね」

小さく呟いた。

その声があまりにも素直で、私は少し照れてしまう。

エレベーターの扉が開く。

救命センターの慌ただしい空気がまた戻ってくる。