紗凪side
プロジェクトが始まってから、二週間。
最初はどこかぎこちなかった空気も、少しずつ変わり始めていた。
育成メンバーたちも環境に慣れてきて。
指導者側との距離感も、前より自然になっている。
もちろん、まだ余裕なんてない。
でも。
“ついていくので必死”だった頃より、全員が少しずつ周りを見られるようになってきていた。
そして、この日。
私たちはヘリ対応シミュレーションを行っていた。
通常のICUシミュレーションとは違う。
フライトを前提にした実践形式。
現場到着から、初動、搬送判断、機内管理。
病院引き継ぎまで。
全部を通して行う、本格的な訓練だった。
しかもフライトシュミレーションはドクター側との合同。
フライトナースだけでは成立しない。
フライトドクターとの連携も含めての評価。
だから空気は、いつも以上に張っていた。
チーム構成は四人。
指導看護師一名。
育成看護師一名。
指導医師一名。
育成医師一名。
その四人で一つのチームとなり、症例対応を行う。
今回は私と担当育成ナースの橘さん。
そして指導医師の西国先生。(めちゃくちゃ怖い)
育成ドクターの桐谷先生と同じチームだった。
シミュレーションルームへ入る。
そこは、実際のヘリ内をかなり忠実に再現していた。
狭い。とにかく狭い。
物品配置。モニター位置。
酸素ボンベ。
全部が本番仕様。
少し身体を動かすだけでも、人とぶつかりそうになる。
「フライトは“狭さ”との戦いでもあります」
開始前。
森崎さんが全体へ向けて言った。
「病院みたいに人増やせません」
「物も限られる」
「だからこそ、“何を優先するか”がめちゃくちゃ大事です」
育成メンバーたちの表情が真剣になる。
すると西国先生が腕を組みながら続けた。
「あと」
低く落ち着いた声。
「ヘリは、逃げ場がない」
空気が静かになる。
「地上みたいに、一回止まって整理しよう、が出来ない」
「飛んだら最後」
「限られた人数で、限られた時間の中で判断し続ける必要がある」
その言葉に、全員の背筋が自然と伸びた。
そして。
「じゃあ始めましょうか」
森崎さんが笑う。
「いつも通り、かなり実践寄りです」
嫌な予感しかしない。
すると神波さんが横で笑った。
「毎回言うけど、今回もちゃんとしんどいよ」
「怖いこと言わんといてください……」
育成ドクターの一人が思わず漏らす。
少しだけ笑いが起きる。
次の瞬間には、また空気が締まった。
モニター起動。
無線音。
『現場到着まで3分』
アナウンスが流れる。
その瞬間。
全員の目つきが変わった。
——始まる。
私は小さく深呼吸して、グローブを装着した。
プロジェクトが始まってから、二週間。
最初はどこかぎこちなかった空気も、少しずつ変わり始めていた。
育成メンバーたちも環境に慣れてきて。
指導者側との距離感も、前より自然になっている。
もちろん、まだ余裕なんてない。
でも。
“ついていくので必死”だった頃より、全員が少しずつ周りを見られるようになってきていた。
そして、この日。
私たちはヘリ対応シミュレーションを行っていた。
通常のICUシミュレーションとは違う。
フライトを前提にした実践形式。
現場到着から、初動、搬送判断、機内管理。
病院引き継ぎまで。
全部を通して行う、本格的な訓練だった。
しかもフライトシュミレーションはドクター側との合同。
フライトナースだけでは成立しない。
フライトドクターとの連携も含めての評価。
だから空気は、いつも以上に張っていた。
チーム構成は四人。
指導看護師一名。
育成看護師一名。
指導医師一名。
育成医師一名。
その四人で一つのチームとなり、症例対応を行う。
今回は私と担当育成ナースの橘さん。
そして指導医師の西国先生。(めちゃくちゃ怖い)
育成ドクターの桐谷先生と同じチームだった。
シミュレーションルームへ入る。
そこは、実際のヘリ内をかなり忠実に再現していた。
狭い。とにかく狭い。
物品配置。モニター位置。
酸素ボンベ。
全部が本番仕様。
少し身体を動かすだけでも、人とぶつかりそうになる。
「フライトは“狭さ”との戦いでもあります」
開始前。
森崎さんが全体へ向けて言った。
「病院みたいに人増やせません」
「物も限られる」
「だからこそ、“何を優先するか”がめちゃくちゃ大事です」
育成メンバーたちの表情が真剣になる。
すると西国先生が腕を組みながら続けた。
「あと」
低く落ち着いた声。
「ヘリは、逃げ場がない」
空気が静かになる。
「地上みたいに、一回止まって整理しよう、が出来ない」
「飛んだら最後」
「限られた人数で、限られた時間の中で判断し続ける必要がある」
その言葉に、全員の背筋が自然と伸びた。
そして。
「じゃあ始めましょうか」
森崎さんが笑う。
「いつも通り、かなり実践寄りです」
嫌な予感しかしない。
すると神波さんが横で笑った。
「毎回言うけど、今回もちゃんとしんどいよ」
「怖いこと言わんといてください……」
育成ドクターの一人が思わず漏らす。
少しだけ笑いが起きる。
次の瞬間には、また空気が締まった。
モニター起動。
無線音。
『現場到着まで3分』
アナウンスが流れる。
その瞬間。
全員の目つきが変わった。
——始まる。
私は小さく深呼吸して、グローブを装着した。

