トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

〈一ノ瀬 紗凪〉


バラバラバラバラ——

爆音を響かせながら、ドクターヘリが夜空を裂く。

機内に響くモニター音。

緊迫した空気。

「血圧低下してます!」

「ルートもう一本確保!」

フライトドクターとフライトナースの声が飛ぶ。

額には汗。

グローブ越しの手には血液。

患者は多発外傷。

高速道路での玉突き事故。

意識レベル低下。

呼吸状態悪化。

一秒でも判断を間違えれば助からない。

「バッグ換気補助入ります!」

ヘリの振動の中、紗凪は迷いなく動く。

薬剤指示。

モニター確認。

医師との連携。

その姿は、かつてドラマ撮影で陽貴たちが見ていた“本物の救命”そのものだった。

——あれから半年。

『ドクターズ〜救命最前線〜』は社会現象級の大ヒット。

黒騎士は全国ツアー真っ最中。

そして紗凪は——

相変わらず、命の最前線にいた。

「一ノ瀬!」

「はい!」

考える暇なんてない。

今この瞬間にも、目の前の命が消えようとしている。

「瞳孔確認!」

「右3.5、左3.5。対光反射鈍いです」

「くそ、頭もやってるな……!」

機内の空気がさらに張り詰める。

患者はまだ若い。

シートベルトをしていなかったらしい。

衝突の衝撃で車外へ投げ出され、多発外傷。

全身に広がる皮下出血。

不安定なバイタル。

止まらない出血。

「収縮80切ります!」

「輸液全開!」

医師の声と同時に、紗凪は迷いなくラインを調整する。

ヘリの揺れで思うように身体が固定できない。

それでも手は止めない。

止められない。

「一ノ瀬、気道どうだ」

「分泌増えてます、吸引入れます」

すぐにカテーテルを操作する。

モニターアラーム。

酸素飽和度低下。

患者の浅い呼吸。

一秒ごとに状況が変わる。

その中で、紗凪の頭は驚くほど冷静だった。

今何を優先するべきか。

何が一番危険か。

次に何が起こるか。

全部を同時に考えながら動く。

——怖くないわけじゃない。

助からない命だってある。

何度経験しても、慣れることなんてない。

それでも。

救える可能性が1%でもあるなら。

自分たちは、最後まで諦めない。

「病院到着まで7分!」

パイロットの声が響く。

まだ7分。

されど7分。

この世界では、その数分で生死が変わる。

紗凪はグローブ越しに患者の手を握った。

「大丈夫です」

聞こえているかなんて分からない。

それでも、声をかけずにはいられなかった。

「もうすぐ病院着きますから」




一ノ瀬紗凪。

中央大学病院救命救急センターICU所属。

ドクターヘリへ搭乗するフライトナース。

冷静な判断力と高い技術力で医師たちからの信頼も厚く、若手ながら最前線を任される存在。

どれだけ切迫した状況でも取り乱さない。

どれだけ過酷な現場でも、最後まで患者へ寄り添う。

さらに、整った顔立ちと凛とした雰囲気を持つ容姿端麗な看護師として、院内でも有名。

だが本人は、そんな視線にまるで興味がない。

「私はただ、自分のやるべきことをしてるだけです」

そう言って、今日も命の現場へ飛び込んでいく。