貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

榊課長は、私の画面を見た。

まだ白紙に近い修正案。

「言わなかったことを書いているのか」

「……はい」

「聞く」

それは命令のようで、でも、急かす声ではなかった。

私は息を吸った。

「朝、昼、夜を別々の提案にするんじゃなくて、店とお客様の距離が変わっていく流れとして見せたいです」

榊課長は黙って聞いている。

「最初は、駅ナカだから便利、でいいと思うんです。でも、それだけだと代わりがきく。朝に迷わず入れて、昼に居場所があると感じられて、夜にほどけられる場所だと思えたら、便利以上の理由で戻ってきたくなる」

言いながら、私は画面にメモを打ち込んだ。

『三分だけ、あなたの味方になる。』

指が止まる。

少し恥ずかしい。

でも、これは悪くない気がした。

「リュミエールは、長く滞在する場所じゃないです。だけど、三分でも、五分でも、その人の味方になれる。朝は急ぐ背中の味方。昼は一人になりたい時間の味方。夜は、帰る前に力を抜きたい気持ちの味方」

胸が熱くなる。

これは、私の好きなものから来ている。

関係性を見ること。
距離の変化を読むこと。
言葉にしない信頼を、順番に置くこと。

漫画のコマ割りみたいに。

でも今は、仕事の資料だ。

「店と客の関係を、時間帯ごとに少しずつ深める構成にします。朝は機能、昼は安心、夜は余韻。三つを繋いで、ブランドの約束にする」

言い終えると、心臓がどくどく鳴っていた。

怖い。

でも、言えた。