貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

「……私、さっき、店とお客様の関係性を考えてました」

「うん」

「最初は、便利だから入る。でも、そのうち安心して入れるようになる。最後には、何も考えなくてもそこに戻れる。そういう流れを作れたらって」

言葉にしながら、頭の中で線がつながっていく。

朝は、背中を押す。
昼は、居場所を守る。
夜は、ほどける時間を渡す。

それぞれ別の施策ではない。

リュミエールという店が、お客様と距離を縮めるための三つの場面だ。

「それ、言えばよかったじゃん」

大崎が言った。

「はい」

「じゃあ今から言いな」

「今から」

「レビューは終わったけど、仕事は終わってないでしょ」

その言葉に、私は顔を上げた。

仕事は終わっていない。

つまり、まだ間に合う。

私は小会議室を出て、自席に戻った。