貴腐人の憂鬱――鬼上司と犬系後輩に、秘密を握られました――

大崎は、少し真面目な顔になった。

「藤代さん」

「はい」

「好きなものを笑われたことがある人ってさ、自分の熱を出す時、すごく慎重になるんだと思う」

胸の奥が、きゅっとした。

「でも、藤代さんの本質って、その熱を隠すことじゃないよ」

「……本質」

「人をちゃんと見ること。誰かの迷いや安心を、ちゃんと言葉にできること。しかも、それを押しつけないで、相手が受け取れる形に整えられること」

大崎は、まっすぐ私を見た。

「それ、趣味とか仕事とか関係なく、藤代さんの強みでしょ」

喉の奥が熱くなる。

「でも」

「でも?」

「また、笑われたら」

「笑われるかもしれない」

大崎は、あっさり言った。

私は目を丸くした。

「そこは否定しないんですか」

「しないよ。世の中には、分からない人もいる。雑に見る人もいる。会社なら噂も立つ」

現実的だ。

この人は、優しい嘘をつかない。

「でも、それで藤代さんの見てきたものがなくなるわけじゃない」

大崎は、静かに言った。

「笑う人がいるからって、見えてるものまで引っ込めなくていい」

胸の奥にあった冷たいものが、少しずつ溶けていく。

私は、膝の上の手を見つめた。